テレッサとシュクレンは慌てて城に向かう。
城門に立つ兵にテレッサが駆け寄る。
「イルーヴォ王妃に会わせて!!リスティが…私の娘が!!」
「許可は取ったのか!平民のイルーヴォ王妃への謁見は許されない。帰ってもらおうか!」
兵はまるで何かを読み上げるように無機質な返答をする。
「お願い!娘を返して!!お願いだから!!」
テレッサは泣き叫ぶ。
「許可は取ったのか!平民のイルーヴォ王妃への謁見は許されない。帰ってもらおうか!」
兵は再び同じ事を言う。
「娘を!娘を!!返して!!」
テレッサが兵の体を揺すると終始無表情だった兵の形相が険悪に一変する。
「無礼者!」
テレッサは突き飛ばされ転んだ。
「うぅ…」
シュクレンはすぐに駆け寄り抱き起こした。
「…大丈夫?」
「ああ…リスティ…リスティ!!」
テレッサは半狂乱になり頭を掻きむしり叫んでいた。
空ではカラスが鳴いていた。
テーブルにテレッサは突っ伏している。激しく憔悴し泣く事もなく一点だけを見つめていた。
そして外で馬車が走る音が聞こえるとシュクレンは外に飛び出す。するとまた路上に何かが転がっていた。
それは明らかに今までのものより小さかった。
「あ…」
シュクレンが歩み出す先よりテレッサが飛び出し走っていった。
そしてそれを見るなり絶叫した。
「イヤアァァァァァァァァァッ!!!!」
シュクレンも震える足でそれに近寄る。
「う…うえぇ…あぅえ…」
全身に無数の小さなが穴が空き全身血まみれのリスティがいた。細かく痙攣し意識は混濁しているようだった。
「リス…ティ…」
シュクレンがリスティに手をかける。
「シュ…レン…痛…痛い…よぅ…お…母さん…リス…ティ…悪い…子で…ご…めん…なさい…」
リスティの目は既に潰れていた。
しかし激しく眼筋を動かして何かを見ようとしているようだった。
「リスティは悪くないよ!全部お母さんが悪いのよ!リスティを守れない弱いお母さんだから!ごめんね!ごめんね!」
テレッサはリスティの体を抱き締める。
「リ…スティ…これから…良い子になるから…お母さん…」
痙攣が収まるとリスティは何も言わなくなった。
「リス…ティ?」
テレッサがリスティを見つめる。肩が細かく震えるとわぁぁと大きな声を上げて泣き叫んだ。
シュクレンもまた激しい嗚咽をこらえきれなくて泣いた。
守れなかった無力感が心一杯に広がりリスティに貰ったイヤリングを握り締めた。
「イラララララ!覚えておくがいい!この国にある物は全て私の物だ!小石一つ取ってもこうなるのだ!イラララララ!」
イルーヴォ王妃は馬車から降りて笑っていた。
「なぜ…笑う…なぜ!笑う!?」
シュクレンは震い立った。胸の奥から熱いドロドロした液体が込み上げてくるような感覚に見舞われた。それは血管を通り全身を駆け回り熱で体が震えた。その感情がなんなのかはわからなかった。
「なんだ?娘?」
イルーヴォ王妃が馬車を降り鞭を取り出した。