「ねぇ、早く聴かせてーっ!」
リスティは目を輝かせている。
後に引けなくなったシュクレンは覚悟して息を吸い込む。
そして…。
街にとてつもない金切り声が響いた。
ある者は下痢を起こし、またある者は昨夜食べた物を吐き出した。
樽に入った水がピチャピチャと音を立てて震え、ガラスが振動でガタガタと震えていた。
「も、もういいよ!シュクレン!わかったから歌うのやめて!」
リスティが耳を塞ぎ叫ぶ。
シュクレンが歌うのをやめる。
するとテレッサが顔色を変えて部屋に飛び込んできた。
「い、今のは何だい!?何があったんだい!?」
青ざめたテレッサの額には汗が滲んでいた。
「シュクレンが歌ったの」
とリスティが苦笑いをしている。
「歌っ!?あれが!?」
テレッサは唖然としている。
家の外を見ると複数の人が倒れていた。
「私…音痴?」
シュクレンが聞くと二人は黙ってカクカクと何度も頷いた。
一方、空では
「だ、誰だ…シュクレンに歌わせた奴は…」
とクロウは大きなため息をついた。
それからは何事もなく日々が過ぎていった。
時折、イルーヴォ王妃に捕まりあの時と同じように街に遺体が転がるがそれも日常に過ぎなかった。
リスティは裏の山で花を摘んで冠を作っていた。
「シュクレンにあげたら喜ぶかなぁ」
ホクホクしながら花を摘んでは冠状に編んでいく。
突然目の前に影が落ちて後ろを振り向くとそこにはイルーヴォ王妃が立っていた。
「イラララララ!それはなんだぁい?」
「あ…あの…お花の…冠…」
リスティは怯えていた。
「随分と綺麗だねぇ」
イルーヴォ王妃はリスティに微笑みかける。
「あ…王妃様にこれあげるーっ!」
リスティはイルーヴォ王妃に花の冠を差し出すとそれを受け取り冠を眺めている。
「花は美しい…可憐で…永遠では…ない」
「王妃様に似合うよー!」
リスティが笑いかける。イルーヴォ王妃は花の冠からリスティに視線を移す。
するとその顔はみるみるうちに邪悪な表情に変わっていく。
「この美しい花を薄汚い下民風情が摘み取るとは何事だ!この国に生える草木といえど私の物…それを摘み取るとは私に対する侮辱だ!!」
イルーヴォ王妃は立ち上がり鞭を取り出す。
「う…うぁぁ…あぁ…」
リスティは震えて声が出なかった。
その頃シュクレンは部屋の掃除をしていた。雑巾を絞り床を拭く。
汚れは殆どなかった。
「このセカイは…生きてない…」
ぼんやり雑巾を眺めてるとテレッサが血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「シュクレン!リスティ見なかった!?さっきまで裏の山で花を摘んでたのを見たけど…今見たらいないのよ!!」
「…!?」
シュクレンは立ち上がりリスティがいた家の裏山に向かう。
そこにはリスティが摘んで編み上げた花の冠があった。そして、花が踏み潰されていた足跡を見て唾を飲み込んだ。
「まさか…イルーヴォ王妃が…ここに…?」
テレッサの声は震えていた。