11.魔女狩り

「旧知の仲ですわ…。かつて何度も戦ってきましたの。決着は未だについてはおりませんわ。もっともにしてクロウの方がまともに戦おうともせずに逃げ回っていることが現状ですわね。もう940年以上も腐れ縁が続いてますわ」
クリスは肩を竦める。
「900…40年以上?」
シュクレンの問いにクリスは頷いた。
「わたくしは不老不死の魔女。途方もない時間の中を生きてきましたわ。その間も人間は幾多の争いを繰り返してきました。全ては欲望がそうさせてきましたのよ。馬鹿に権力を与えてはいけませんわ。ダン国王のように我欲に支配されてしまっては取り返しがつかなくなってしまいますの」

「…でも…ここは不浄セカイ…だから…」
シュクレンの言葉にクリスは鼻で笑う。

「ふふ、不浄セカイだから死者しかいないと思って?」
「え?」
「ここはデスドア。我欲のままに妄想が形になる世界ですわ。その根源は欲にまみれた魂の力。より強い魂を持てば現世における影響力も計り知れないものになりますわ。例えば、死者が蘇り現世へ再び舞い戻ることさえも…」
「…死者が…蘇る?」
クリスは左手の魔導書を開き呪文の詠唱を始める。右手人差し指で空中に魔法陣を描くと映像が浮かび上がる。

「…あ」
シュクレンは思わず手を出してみるがなんの抵抗もなく突き抜けた。
「これはわたくしが見てきた人類の歴史ですわ。戦争で殺戮と破壊を繰り返してきた呪われた歴史…」
荒涼とした大地で、泣き叫ぶ子供の映像が見える。その足元には元人間だったであろう肉塊が落ちている。
「その子は自分の目の前で親を失いました。その子の未来は明るいものかしら?救いようのない喪失感と絶望、失望と共にある人生をどう生きていくのでしょう。その頃世界は混沌としておりました。血で血を洗う争いが繰り返され多くの命が無惨にも失われていきましたの」
「…どうしたいの?」
シュクレンの言葉にクリスは肩を揺らし笑い始めた。

「どうしたいの?ですって!ほほほ、まだわからないのですね?私は人類から死を奪い去りたいのですわ!」
「…死を…奪い去る?」
「ふふ、あなたにはまだ理解出来ませんわ。私がすることの邪魔をしないようにクロウにも伝えておいてください。さもなくば…あなたでもわたくしの目の前から消えてもらうことになりますわ」
クリスが指で印を切ると目の前の映像が消滅する。

「もっともこの広大なデスドアで再会することは滅多にありませんの。わたくしに出会えたのは奇跡に近いものですわ。どうします?死神の意地にかけてもわたくしと戦うおつもりかしら?」
「…ここには…クロウいない…だから…」
「ほほほ、当然ですわ。以前に戦った頃よりもわたくしは魔力を増しております。今戦ったところで勝てないのは明白。クロウはその柱の影にでも隠れているのですわ。それにあなたにはわたくしと戦うよりも重要な役割があるはずですわ」
「…重要な…役割?」
「クロウでもかつての従者では成し得なかったことがあるのですわ。何世代にも渡り受け継がれてきた仕事をあなたが請け負うのです。あなたにはそのような力があるとわたくしには感じましたわ。あなたをそのような姿にしたのは深い意味があるのですわ」
クリスは両手を広げて見せた。よく見れば自分とクリスは瓜二つの姿をしている。
「…私は…」
「ふふ、あなたはわたくし。クロウもわたくしを追いかけていたのですわ。そう考えたら少しだけ嬉しくなりました…お喋りの時間はおしまいですわ。あなたはクロウと合流しこの世界が終わるのを見届けなさい」
クリスはそう促すと一瞬シュクレンの肩に手を置き横を通り抜ける。

「ゴミ掃除をしてきますわ☆」