4.紅い死の微笑み

炭鉱街の中心へと歩を進める。
「凄い人込みね!」
「みんな坑道で働いてる炭鉱夫だよ。交代で働いてるから今が一番出歩いてる人が多いよ」
「リュック!ちょっと手伝って!」
途中、上の建物から女の声がした。
「あ、スロウさん!」
「ん?誰?」
「親方の奥さんだよ!」
「あら?デートの途中邪魔しちゃったかしら?」
「いや、デートだなんて…!どうしたんですか?」
思わずリュックの頬と耳が紅くなる。
「またデビッドが酔いつぶれて外で寝てるのよ!部屋に運ぶの手伝ってほしいのよ!」
「親方が…また!?呑むと記憶無くなる人だからなぁ…」
「行ってあげなよ!あたいは1人で散策するから平気だわ」
キリコはリュックの背中を押す。
「ごめん!ちょっと行ってくる!」

キリコは街を散策してるとノスタルジアが空から降りてきてキリコの右肩に留まった。
「はーい!キリコ!」
「はーい!ノスタルジア!で、どうだった!?」
キリコの問いにノスタルジアは首を横に振る。
「駄目だわ。とても人が多過ぎるの。ここから不浄を特定するのは困難だわ。それに範囲も広過ぎるの。相当想いの力が強い不浄の魂よ!でも私達が入って来てる事はたぶん気付かれていないわ。向こうから動くのを待つしかないわね」
行き交う人々の動きは活気に満ちていたが、その表情は何故か強ばっていた。

「随分緻密なセカイね。でもどこかぎこちなさを感じるわ」
「そうね、キリコ。不浄を見つけ出すヒントがどこかにあると思うわ!それを見逃しちゃダメよ!」
歩いてると路地の奥に先ほどの大男のグレッグがハンマーを構えて立っていた。
「あれ?あいつさっきの…?」
キリコは足音を忍ばせて近付いていく。
グレッグの目の前には縄で縛られた豚がいた。

「何やるのかしら?まさか…」

グレッグがハンマーを振り上げた。

「ちょ!ちょっとタンマ!」
思わずキリコが飛び出す。グレッグが気付いてキリコを見る。

「お前!さっきの女…ここで何してるでゲス!?」
「あ、あんたこそ何をしようとしてるわけ!?その豚ちゃん殺す気?」
「んだ!殺して食うんだ。何か悪いか?」
グレッグは再びハンマーを振り上げる。

「ちょちょちょ!それマジーッ!?」
グレッグはハンマーを豚の頭に振り下ろす。
頭蓋骨を砕く乾いた音と肉が引きちぎれる湿った音が同時に鳴り血飛沫がキリコの顔や建物の壁にまで飛んだ。

「ひぃぃぃっ!」
思わず悲鳴をあげ、顔に飛んだ血を拭い去る。
「お前うるさい!邪魔でゲス!消えろ!」
グレッグは犬を払うように手を振る。
「あ、あんたねぇ、もっとスマートな屠殺の仕方ないの!?」
キリコの足がガタガタ震えていた。

「これが一番楽。豚もこれの方が楽。お前、肉食わないのか?」
グレッグの足元では頭部を失った豚の体が痙攣していた。

「あたいは焼き肉とか好きだけど…あ~、もうしばらくお肉食べられないじゃないのよぅ…」
キリコががっくり肩を落とし溜め息をつく。

「そういやお前俺を助けてくれた。だからお礼する。この豚やる」
グレッグは豚を差し出す。

「嫌ー!要らないわ!ありがた迷惑よ!ところであんた!さっきはなんであんな弱っちぃ男達になぶられるままになっていたのさ?そんなデカい体して!」
キリコの問いにグレッグは頭を掻いていた。