1.紅い死の微笑み

魂は終わりのない物語を紡ぎ出し、その中で永遠に生きようとする。我欲のままに都合の良い夢を見て魂は腐っていく。

それが死を狩る者の手によって儚くも消えゆくものだとしても。

渓谷に築き上げられた町には多くの労働者が行き交う。その多くは石炭や粉塵にまみれている作業服を纏う炭坑労働者だった。
連なるバラックの屋台にはたくさんの飲食店があり、人々は夕食を求めて往来していた。
その中を縫うように走る一人の少年がいた。

「おばちゃん、肉団子2つ入れて!」
「あら?リュック、まだ仕事なのかい?」
リュックは炭坑の町で生まれ育った15歳の少年だ。
店のおばちゃんは手際よく肉団子を掬うと差し出された飯盒に詰め込んだ。
「うん、残業なんだ!」
「サービスしといたよ!頑張りな!」
「おばちゃんありがとう!」
飯盒を手に来た道を戻る。暗い夜道にさしかかると走り出し職場の炭坑へと向かう。明かりはないが慣れた暗い道を軽快に走る。

すると空から小さく光る何かが降りてくるのが見えた。それは星のように瞬きながらゆっくりと降りてくる。

「…?あれ、何だろう?」
その光に近付いていくとその姿が徐々に鮮明に見えてくる。

「お、女の子だ!」
大急ぎで狭い足場を昇り女の子に近付く。
不思議な光に包まれており、リュックの腕にフワリと乗る。
「わぁ…」
しばらくは腕の上で上下に浮遊していたが光が薄れていき完全に無くなるとその瞬間に重くなり荷重が急激にかかる。

「!?ふぐぉ…ぐぬぬぬ…ぎぎぎ!」
リュックはふらつきながらやっとの思いで女の子を足場に乗せる。
「そ、空から女の子が降ってきた…」
眠っているように目を瞑っている少女の顔を見る。赤い髪を後ろでまとめており、顔は端正に整っていた。
黒い洋装にレザーパンツと見た事のない服装で左腕には赤いバンダナが結ばれていた。

「あ~あ、よく寝たわ」
女の子は突然起き上がると背伸びをして欠伸をする。
「わぁ!き、君…空から降りてきたけど?」
「ん?そりゃあ、あたいは手品師だからこんなことくらい簡単よ!」
女の子はケラケラ笑いながらリュックの肩を叩く。
「手品師!?あんなすごい手品を見たのは初めてだよ!!」
「あたいはキリコ!そして…」
空から一羽のカラスが降りてきてキリコの腕に留まる。

「こっちが相棒のノスタルジア!世界を旅してるの!」
「ぼ、僕はリュック!よ、宜しく!」
顔を赤らめてうつむき加減に挨拶を交わす。
「あら?この子ってば照れてるのかしら?」
ノスタルジアが喋る。
「うわ!カラスが喋った!?」
リュックは驚き後ずさりするとまじまじとノスタルジアを見つめる。
「あら?カラスは元々頭がいいのよ。言葉も覚えるし喋るのよ!」
キリコはノスタルジアのクチバシを突っつく。
「あたいの言葉を覚えて喋るの!面白いでしょ?これとあたいの手品を見世物に路銀を稼いで旅しているのよ!」
「すげぇ!なんかかっけーっ!」
リュックは興奮し小躍りするように狭い足場の上で飛び跳ねた。