9.学校

「焼きそばパン…一緒に食べた」
加奈は拍子抜けした表情をする。
そして小さくため息を吐くと元の姿へと戻った。小刻みに体が震えている。
「ねぇ、あたしってどうして生まれてきたのかな…どうして死ななきゃいけなかったのかな…どこにも…居場所がない…ここにも…」
加奈の目から小さな涙の粒が零れる。
「…加奈と話せて楽しかった」
加奈の涙を指で拭う。
「あたしと話せて…楽し…かった?」
ゆっくりと頷く。
「…笑ったり、泣いたり、とても楽しい…」
加奈を抱き寄せる。お互いの血が混ざりあった。
その温もりが加奈の体の震えを止めた。
「うう、うぁ…うああああぁぁぁぁぁ!!」
とめどなく溢れてくる感情の波に耐えきれず加奈は泣きじゃくった。流れてくる涙と鼻水を何度も拭いながら泣き続けた。

「私も…たぶん…同じ…」
「あなたも…?嘘よ!」
「だから…ここにいる…私は死神…」
二人の間に静かな時間が流れた。キリコはシュクレンに頷き促す。
そして加奈の背中にシュクレンの大鎌が突き刺さった。痛みは無く、全身の力が抜けていく。

「ぅあ…」
加奈の体から光の粒が舞い上がる。シュクレンは自分の胸に手を当てる。

「加奈…私の心…ここにずっと…加奈の事忘れない…だから…いつまでも友達」
大鎌を引き抜くと後ろに倒れゆく加奈の手を握った。

「友達…」
加奈の体が小さくなる。消えゆく最期に加奈は笑った。
「そうだったね…」

そして光の粒が空中に弾けるとガラス玉のような魂が残った。校舎の壁に亀裂が生じ崩壊が始まる。クロウは大鎌の変化を解き翼を広げ飛び立つ。

それと同時にシュクレンが倒れかけキリコが間一髪抱きかかえた。

「シュクレン…こんな傷だらけになって可哀想…!」
シュクレンをギュッと抱きしめる。

「キリコ…ありがとう…」
「え?ああ…そうね!たまたま通りかかったから~…ね?ノスタルジア!」
ノスタルジアが横目でキリコを睨む。
「あら、そうね!自分の仕事を放棄してまでこっちに来たものね!あの慌てようったらこっちまで可笑しくなってしまうわ!」
ノスタルジアはクスクス笑う。

「うっさいわねーっ!」
キリコは頬を赤らめて憤慨した。
「ちっ!しゃーねぇ奴だな!人の獲物を横取りしに来やがって!用が済んだらサッサっと自分の仕事に戻れ!!」
クロウが毒づくとキリコは仏頂面で反論する。
「元はと言えばあんたが結界に気付かなかったんでしょー?もしかしたらあのままシュクレンは殺されていたかもしれないのよ!?あんたもあの不浄のコレクションの中に収まってたかもしれないのよ!?少しはあたいらに感謝って事ができないのかしら?全くこれだから安心出来ないのよ!それにあの不浄は正直言ってシュクレンの相手には少し荷が重かったんじゃないかしら?本当に危なかったと思うわ!!」
キリコがジッとクロウを睨む。クロウは罰が悪そうに顔を背けた。

「う…確かに今回は少し読み誤ったぜ…ここにはあいつしかいなかったから油断したんだ」
「力そのものは大した事がなくても作戦次第じゃ死神でも不覚を取るのよ。あなたにしては珍しいミスをしたものね?それとも私が知らないだけであなたが衰えたのかしら?」
ノスタルジアはわかったように何度も頷くとクロウは俯いた。