石造りの大きな扉の前にロウファが立つ。
「死神ブラック!帰還致しました!」
轟音と共に扉が開き黄昏の夕焼けに染まる廃墟が現れた。
そこにはロウファと同じ年の瀬の少女が立っていた。白く輝く髪に透き通るような肌、そして緑色の光を宿した瞳が際立って妖しく見えた。
彼女はデスドアの死神達を統括するルシファーだ。
「ブラック…死蜘蛛ゲゼルの始末ご苦労でしたね。おや?従者をまた替えたのですね?」
ルシファーは幼い子供のように微笑むとロウファを見つめる。
「は!ルシファー様。前の従者は獣の魂にやられてしまいまして…」
ブラックは恐縮し目を泳がせていた。
「いずれは死にゆく者…気にする事はないでしょう。しかし、常に代わりがあるわけではないのですよ?」
「は!今度こそは実力は本物です。いかなる強大な魂にも打ち勝つ事ができるかと!」
「そうですか…では私に見せてもらいますか?その従者の力を…。」
ルシファーは両手を広げると周りを囲うように光る象形文字のようなものが現れた。
その中の一つを手で掴む。
「この宇宙には魂が消えても記憶が残る。その記憶を呼び覚ます事により魂が消えても再び存在する事ができる。それが…『アカシックレコード』!」
象形文字を放つと光の粒が人の形を作り上げていく。
そしてそれは大きなハンマーを持った男に変化した。
「殺人炭坑夫グレッグです。ブラック、この男を倒しなさい!」
「確かそいつはノスタルジアが苦戦した…ふふ、わかりました。ロウファ!やるぞ!我が名を叫べ!!」
ロウファが右手を差し出す。
「ブラック!」
名を叫ぶとブラックは黒い光を放ち大きなハンマーへと変化する。ツインテールの結び目が立ち上がり服に炎の紋様が浮かび上がった。
ロウファは己の背丈よりも大きいハンマーの鎚を地面へと下ろし後ろ手に構える。
「なんだ?お前…誰だ?俺…ここで何してた?」
グレッグは状況が飲み込めない様子で周りをキョロキョロ見回している。
「ふふ、ノスタルジアが滅したのは邪な部分だけのようですね。まだ良心は残っていたようです。ではその記憶を少し書き換えてみましょうか」
ルシファーは象形文字の一文字を書き加える。するとみるみるグレッグの顔が豹変していく。
「おお…おごぁ…来るな!お前は…来るな!!嫌だ!嫌だァ!!!!」
グレッグは頭を抱え転げ回る。
「うざぎぃぃぃ…ごろじだ!!」
立ち上がると狂気めいた表情に変りハンマーを振り上げる。
「ふふ…それでいいのです。その方が倒しがいがあるでしょう?」
ルシファーは手を叩きロウファに戦うよう促す。ロウファは視線をルシファーからグレッグに移した。その瞳が猫のように細く絞られる。
「お前!うさぎの痛み!思い知らせる!!うぐぅぅぅぅ!!」
「痛みは…知らない」
グレッグが駆け出し2人の距離が縮まった瞬間、2つのハンマーがぶつかり大きな火花を散らす。衝撃波がルシファーの前髪を揺らした。
「うふふ…お互いに同じ武器。面白い戦いになりそうですね」
ルシファーは瓦礫に腰掛け観戦している。
「ロウファ!臆するな!今のお前は全てにおいて奴の力を上回る!だがまだ死神の体に慣れていない。動きながら感覚を身に付けるのだ!!」
「了解した」
ハンマーを握る手に力が込められた。