21.羆

眠っているシュクレンの傍に寄り添うキリコの姿があった。
「疲れて眠ってるのね。よく頑張ったわね!」
「キリコもよく耐えたわね?何度も飛び出そうとして抑えるのも大変だったけど?」
ノスタルジアの言葉にキリコは口を尖らせる。
「だってあたいだったらあんな獣だってチョチョイとやっつけちゃうわよ!」
キリコは鼻息を荒くして言った。
「それがこの娘のためになると思ってるの?」
「どうかしらね!この子少し鈍臭い所があるからさ。放っておけないというか、助けてあげたくなっちゃうのよ!」
キリコの言葉にノスタルジアはクスクスと笑った。二人のやり取りの下でシュクレンは寝息を立てている。
その寝顔は穏やかでキリコは顔にかかる髪をかきあげた。
「美味しそうね。もっともっと美味しくなってもらなきゃ困るわ!」
キリコは唇を舐めると顔を近付ける。
「キリコ、あなたにはあなたの仕事があることを忘れちゃダメよ。いつもあなたはそうやって」
「おっおっおっお説教きらーい!!」
キリコは颯爽と走って逃げていく。
「こら!待ちなさい!!」
ノスタルジアはその後ろ姿を追った。

不浄の世界デスドア。
そこは死した魂が堕ちる最後の場所。迷える魂は我欲に満ちた妄想を形にして都合の良い夢を見続け腐っていく。

しかし、その魂を狩りとる死神と呼ばれる存在があった。

まだまだ迷える不浄の魂は無数にデスドアに存在している。

消えていく厳寒の山嶺にまるで羆の咆哮のような風の音が響いていた。

 

終わり