13.羆

男達は憔悴しきっていた。
惨状をそのままに家屋の中で暖をとっていた。

「お前達は風上にいた。だから匂いに気づいて逃げたんだ。羆は鼻が効くからな。でも奴が逃げてよかったかもしれん。もし遭遇してたらお前達は全滅していた。あいつは人の肉の味を覚えちまった。俺達はあいつにとって脅威でもなんでもない。ただの餌でしかない。それを覚えておけ。武器はどれくらいある?」
武三の問いに男達は目を合わせる。

「草刈り鎌と包丁と鍬(くわ)だ」
「そして俺の銃と弾が7発か…」
沈黙が広がる。

「こんなので羆が殺せるのか!?」
「銃じゃねぇと駄目だ…鎌や鍬じゃ殺せねぇ。分厚い皮膚と脂肪に阻まれて骨には届かねぇ…」
武三は右手の平に左人差し指を当てて説明する。
「討伐隊はどうなった!?」
「山で数人の遺体を見つけた。後はわからねぇ。あの吹雪の中じゃ生きてはいねぇだろうな」
武三は首を振ってため息交じりに言った。
「ダメだ…俺達はみんな食われちまうんだ!ここから逃げよう!」
「この吹雪の中をか?2日も歩き通して帰れるのか?食糧もないのに…」
「食糧?そういや保存していたやつは…?」

「みんな羆の奴に食われたよ…」
絶望的な状況にみんな息を呑んだ。
「逆に羆を殺って食うしか生きる方法しかないな…」
「でもどうやって殺すかだよな…」
それからは誰もが押し黙り部屋の中には薪が弾ける音しか聞こえなかった。
「食糧といえば俺の家に漬物があったはずだ」
男の1人が思い出したように言うと立ち上がる。そして、戸を開けると外を確認する。
「ちょっと取ってくらぁ!」
そう言って戸を閉めた。
「とにかく奴は狡猾だ。すぐに俺達を殺す事が出来るがじわじわと俺達が弱っていくのを待っているのかもしれん」
男達が囲炉裏を囲み話し合っている後ろでシュクレンは袋に詰めたデューンの魂を見ていた。
あの鬼気迫る戦いは瞼の裏に焼き付いていた。自分もあれほど強ければクロウが食べられる事もなかったのだ。
キリコやデューンはどうしてあそこまで強くなれたのだろうか?
明らかに自分とは次元がそのものが違う強さだった。

そして、デューンを見捨てたブラックに怒りを覚えていた。ブラックにとってデューンはただの捨て駒でしかなかったのだ。
クロウは従者である自分をとても大切にしてくれていた。ノスタルジアもまたキリコを大切にしていた。それが普通だと感じていたのだ。
でもブラックは違っていた。もう既に戦えない状態のデューンを奮い立たせ戦わせたのだ。
無論、あの傷ではあのままにしていてもデューンの死は免れなかった。
だからこそ、最期くらいはもっと別な言葉のかけ様があったのではないかと思っていた。
今となっては全てが遅い。
シュクレンは膝を抱えただ涙を流した。
「おい、どうしてお前だけ助かったんだ!?」
男の一人がシュクレンに食ってかかる。
「やめとけ」
武三が静かに制止するが男は立ち上がるとシュクレンの肩を掴む。
「どうしてお前だけ助かったんだ!?タエは…タエは形すら残ってないのにッッッ!」
「…そ、外に…すぐ逃げた…」
「お前一人でかっ!?」
男はさらに激昂する。
「やめろ!」
武三も立ち上がり、男の手を握りシュクレンから離した。
「こんな小娘に何ができる!?逃げるだけで精一杯だったろう!?たった一人でも生存者がいたんだ!!それだけで十分だろう!!!」
武三が怒りを露わにして怒号を上げる。その剣幕に男は驚き言葉を失っていた。
「すまねぇ…つい…」
男は俯き、元いた場所へと座った。