12.紅い死の微笑み

キリコは岩を掴み一つ一つ避けていく。しかし、すぐに大きな岩に塞がれてしまった。
「ダメだわ…あたい1人じゃとても無理よ…」
「他に入口はあるだろうけど、ルートがわからないとかえって危険ね。街のみんなに声をかけて手伝ってもらう必要があるわ」
ノスタルジアは街の方を見るとやや薄く霞かかっている。
「不浄が現れたわ!キリコ見て!」
キリコが目を凝らして街を見ると人の姿は見えなかった。
「つまり、不浄はこの炭鉱の中にいる誰かって事ね?」
「そういうことだわ。たぶん今まで不浄の自覚が無かったの。でも炭鉱の中で何らかの原因で落盤が起きてそれかがきっかけで不浄が覚醒したのだわ!早くしないと私達も飲まれてしまうわよ!」
不浄は妄想世界に浸り、己の死を忘れ日常を謳歌している。しかし、死の間際に見た記憶が蘇ると不浄として覚醒し本来の姿を現す。
そのせいで不浄とは関係ない世界は濁り薄くなり、不浄の周りは色濃く構築されていく。
そして、不浄セカイにおいて不浄が現世で迎えたように死亡すると不浄セカイの時間は巻き戻るのだ。それを永遠に繰り返していく。
しかし、再び構築された不浄セカイは全く同じではなく繰り返されただけ改変されていき魂は少しずつ自我に近付いていく。
すると不浄セカイはガン細胞のように膨張し大きくより緻密になっていく。それを放置してしまうと起きるのが次元の転換である。

「ノスタルジア!」
キリコがノスタルジアの名を叫ぶと右手に留まり口を広げ翼を広げると銃の形へと変化していく。
そして、銃口へと光の粒子が集まりだした。
「どこまで落盤の影響があるかわからないからパワーの調節が難しいわ!リュックまで巻き込まなきゃいいけど!」
「一気にまとめて終わらせてもいいのよ?不浄はここにいるとわかったんだし、フルパワーで放てば中にいるもの全員消し飛ぶわよ!巻き添え食らう魂は気の毒だけど!」
ノスタルジアはさらに光を集め出力を上げる。
「ダメよ!リュックや他の炭鉱夫は助けるわ!!たった一つの魂を滅するのに他の魂まで巻き込みたくないわ!あたいはそんな雑な仕事はしたくないの!!」
キリコは引き金に指をかけて照準を合わせる。
「キリコ!結局同じことよ!助けた所で死んだ者が生き返るわけじゃないの!既に現世を去った魂なのよ?まだ不浄は得体が知れないわ。リスクを負うよりもここで決めた方が楽じゃない?」
ノスタルジアの提案にキリコは首を横に振った。
「同じじゃないわ!せめて死んだことを忘れているなら思い出させてやるのよ!そして次に生まれて来る時に真っ当な人生を送れるように魂を浄化して返してあげるのがあたい達死神の仕事でしょ!!」
キリコの訴えにノスタルジアはため息をついた。
「あなたは遊んでるように見えて本当に仕事は真面目なのね!本当に感心しちゃうわ!」
「あたいはいつでも大真面目よ!それにどんな不浄か見てみたいじゃない?」
キリコは笑みを浮かべると引き金を引いた。