18.魔女狩り

床に転がるセルビアの魂を手に取り袋に詰める。
「…クロウ…セルビアは…」
クロウは大鎌から変化を解き翼をばたつかせるとシュクレンの前に降り立つ。

「血筋か…いろいろあるんだよ。人間ってのは何かと面倒な生き物でな。身分、血筋、家系としがらみが多いんだ。きっとこの女剣士も葛藤があったのだろう。剣を握らねばならん事情がな。だが俺らがそれを知ったところでしてやれることは何もないんだ。俺らの任務は完了だ。あとは他の死神が国王を討伐するだろう。いくら強大な魂でもあれだけの死神を相手に戦えるはずがない」
「…クリスが今戦っている」
「クリス?あの娘か…そうか…た、戦っているだと?」
「…うん、魔女…伝説の…」
「あの娘がか!?そうか…俺様としたことが…!!クリスか…あいつめ…!」
「…何度も戦ったって…」
「ああ、そうだ。あいつの狙いはわからんが無差別に魂を集めている。俺ら死神にとっても邪魔な存在だ。しかも厄介なことに死神の魂すら奪っていくんだ。ルシファー様もその存在を疎ましく思っている」
クロウはシュクレンの顔を見るとクチバシで差す。
「…私も…」
「お前は幸いにも姿があいつに似ていた。そのおかげか親近感が湧いたのだろう。見逃されたのか、或いは俺達を利用しようとしているかはわからんがな。いずれにしてもこれ以上あいつと関わるのは危険だ。お前はまだあいつと戦える力をつけていない。あいつは魔法だけじゃない。ありとあらゆる武術を身に付けている。全く隙がないんだ」
シュクレンはクロウの言葉に頷きつつもセルビアの魂が入った袋を胸に添えて目を瞑っていた。

クリスの周りにはいくつもの死神の魂が転がっていた。
「ほほほ☆お口の割に大したことありませんでしたわ」
再びクリスとロウファが対峙する。二人の間に張り詰めた空気が広がり互いの頬にピリピリと刺すような刺激を感じた。

「ふん、所詮は烏合の衆だ。数が増えたところでチームワークで戦えるわけもない。ロウファよ。油断するな!!」
ブラックの言葉にロウファは頷いたが視界はユラユラと揺れていた。手足が鉛のように重い。
「どう見ても満身創痍…それでも戦いますの?そのお嬢ちゃんはまだ経験が浅いですわ☆もう少し磨けば相当な腕前になると思いますわ」
「ふん、我らに後退は無い!制圧前進あるのみ!!行くぞ!ロウファ!我を思う存分振るうがいい!!」
ブラックの叫びと共にロウファは重い足を奮い立たせ地面を蹴る。
しかし、その足は何者かによって掴まれ体は無防備に上に舞い上がった。
「…ッッッ!?」
「るぉぉぉぉぉぉっ!!」
倒れたはずのダン国王が立ち上がる。そして振り上げたロウファを勢いよく床に叩きつけた。
「がァッ!?」
後頭部を強打し視界が激しく回転する。
「チィッ!化け物め!!ロウファ!!反撃だ!!」
「うぅ…」
足を震わせ立ち上がる。ハンマーを振るよりも先にダン国王の拳がロウファの腹部へ突き刺さった。体が“く”の字に曲がり無造作にダン国王の頭上へと持ち上げられた。
「ぐ…ぁっ!」
ロウファはハンマーを振り上げ反撃に出ようとするが上手く両腕が動かない。ダン国王の頭にロウファの腹部から流れ出た血が振りかかる。その血を舌なめずりすると肩を揺らし笑い始めた。

「ふはははは!!実に美味だ。新鮮な子供の血はたまらんな。全身に染み渡り若さが溢れんばかりだ!!」
ダン国王の体が波打つと血管が浮き出し筋肉は大きく膨らみだした。
「あ…ぐ…」
ロウファは震える手で必死にハンマーを離さまいと柄を握りしめていた。