第12話:新しい地平
宇宙船の窓から見える赤い地球が、私の目に焼き付いていた。私はルナ、「月の人」。白い血を流し、月のクレーター都市で道具として生きてきた。でも、今は違う。アレンと一緒に、月の支配から逃げ出した。火星へ向かうこの船の中で、私は初めて自分の人生を手に持っている気がした。
隠し部屋から操縦室に出ると、アレンがトムと笑い合っていた。追跡船を振り切った安堵が、彼らの顔に浮かんでいる。私が近づくと、アレンが振り返り、優しく笑った。
「ルナ、無事火星に着くぞ。もう少しだ」
私は頷き、彼の隣に立った。窓の外には、月のドームが小さく遠ざかり、赤い地球が静かに輝いている。
「私、こんな景色初めて見たよ。アレン、ありがとう。私を連れ出してくれて」
彼は私の肩を軽く叩き、照れたように言った。
「お前が頑張ったんだよ。俺はただ、手を貸しただけさ」
船が火星の大気圏に突入すると、揺れが私たちを包んだ。トムが操縦桿を握り、器用に船を着陸させた。扉が開き、赤い砂が舞う火星の大地が目の前に広がった。アレンが私の手を引いて、外へ連れ出した。
「これが火星だ。風が強いだろ?」
確かに、月の静けさとはまるで違う。砂嵐が頬を叩き、息をするたびに鉄の匂いがした。でも、それが生きてる実感だった。アレンが言ってた通りだ。私は目を閉じ、その風を感じた。
「うん…生きてるって、こういうことなんだね」
その日、アレンの家族に会った。硬いパンを焼く母さんと、地球の話を語る父さん。彼らは私を温かく迎えてくれた。白い血の私を、ただのルナとして見てくれる人たち。月の管理者には想像もできない優しさだった。夜、住居の外で、アレンと並んで座った。赤い地球が空に浮かび、私たちを見下ろしている。
「アレン、私、ここで何ができるかな?」
私が聞くと、彼は少し考えてから答えた。
「お前がしたいことをすればいい。火星じゃ誰もお前を道具扱いしない。俺と一緒に、地球を復興させる夢でも追うか?」
その言葉に、私は笑った。ポケットから地球の写真を取り出し、二人で見つめた。青い海と緑の森。私たちの夢だ。
「うん。一緒に追いたい。私、地球を青くしたいよ」
次の日、火星の仲間たちが集まった。トムや他の船員たち。彼らは月の支配に抗った私たちを讃え、新しい計画を話し始めた。地球復興への一歩。火星と月の民が協力すれば、赤い大地に青を取り戻せるかもしれない。私はその輪に加わり、自分の意志で未来を描いた。月の実験体だった私に、そんな日が来るなんて。
夜が更け、アレンと二人で赤い地球を見上げた。私は彼の手を握り、呟いた。
「これが私の新しい地平だね。アレンと一緒なら、どこまでも行ける」
彼は笑って、私の手を握り返した。
「ああ。俺もだ、ルナ。新しい地平を一緒に作ろうぜ」
赤い地球が輝く空の下、私たちは未来へ向かって歩き出した。白い血と赤い血が交わる場所で、新しいエデンが始まるのを信じて。
完