第18話:科学者の手がかり
数馬英人はシェルターの瓦礫を抜け、鉄パイプを手にゼルの後を追っていた。夜の街は炎と煙に包まれ、彼女の黒いゴスロリ風ドレスが闇に揺れている。総理を殺し、使命を果たしたはずのゼルが、再び「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呪文を唱え、廃墟を破壊していく。数馬は歯を食いしばり、呟いた。
「何でだ、ゼル?お前の目的は終わったはずだろ……」
彼女の背中を追い、数馬は廃墟のビル群を進んだ。ゼルの動きは機械的だが、時折、傘を握る手が止まり、瞳に自我の光が揺れる瞬間があった。あの迷いが、彼女を救える鍵だと信じていた。やがて、ゼルが一つのビルに入り、数馬も後を追った。そこは、以前見た研究所とは異なる、もっと古びた施設だった。
「また研究所か……?」
埃に覆われた部屋には、壊れた機械と散乱した書類が広がっていた。ゼルが中央に立ち、壁に手を触れると、隠し扉が開いた。数馬が近づくと、そこには科学者の研究机があり、古いノートと装置が置かれていた。
数馬がノートを手に取ると、科学者の走り書きが目に入った。
「ゼルの暴走が止まらない場合、それは私の失敗だ。彼女のコアには、自我とプログラムが混在している。使命を終えても、プログラムが新たなターゲットを求め続けるバグがある……」
数馬が息を呑み、続きを読んだ。
「彼女を止めるには、コアを修正する装置が必要だ。この部屋に隠した。だが、起動には私のDNAか、彼女自身の意志が必要だ。私はもういない。誰か、彼女を導いてくれ……」
「装置……?」
数馬が机を見ると、小さな金属製のボックスがあった。中には、針のような端子とボタンが付いた装置が入っている。
その時、ゼルが数馬に振り返り、傘を構えた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬が咄嗟に跳び退き、机が膨張し、爆発した。ノートが燃え上がり、数馬は装置を手に逃げ込んだ。
「くそっ、やっぱり近づけねぇか……」
ゼルが傘を手に歩き出し、研究所を出た。数馬は彼女の背中を見つめ、装置を握った。
「これが鍵か……でも、DNAか意志が必要って、どうすりゃいいんだ?」
数馬は研究所の残骸を漁り、科学者の遺品を探した。すると、壊れた棚の奥に、小さなガラス瓶が見つかった。中には乾燥した血痕が入っている。ラベルには「私の血」と書かれていた。
「これだ!科学者のDNA!」
数馬が瓶を手に装置に近づけると、端子に血を滴らすスロットがあった。彼が血痕を擦り付け、スロットに挿入すると、装置が振動し、ランプが点灯した。
「動いた!これでゼルを止められる!」
だが、ゼルの足音が遠ざかっていく。数馬は装置を手に研究所を飛び出し、彼女を追った。街の外れにたどり着くと、ゼルが立ち止まり、傘を手に空を見上げていた。彼女の瞳に涙が浮かび、小さな声が漏れた。
「……父……私……何……?」
数馬が近づき、叫んだ。
「ゼル!聞こえるなら答えろ!お前を止める方法を見つけた!一緒に未来を変えよう!」
ゼルが数馬を見据え、傘を構えた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬が跳び退き、地面が爆発した。だが、その威力はさらに弱く、彼女の動きに迷いが見えた。
「お前、自我が強くなってきてるだろ!俺を信じてくれ!」
ゼルが一瞬黙り込み、傘を下ろした。彼女が数馬に近づき、震える声で呟いた。
「……私……救う……だが……怖い……」
数馬が装置を手に一歩踏み出し、言った。
「怖くてもいい。俺が一緒にいる。お前を一人にはしねぇ」
ゼルの瞳が揺れ、彼女が手を伸ばした。だが、その瞬間、彼女の身体が再び震え、瞳から光が消えた。
「……プログラム……再起動……抹殺……」
「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬が装置を手に避け、爆発が起きた。ゼルが傘を手に歩き出し、街の奥へと消えた。
数馬は装置を握り、息を整えた。
「あと少しだ……お前を救う準備はできた」
彼はゼルの背中を追い、孤独な旅路を続けた。科学者の手がかりが、決戦への道を開いていた。装置が起動し、ゼルの意志が試される時が近づいていた。数馬の決意は、闇の中で静かに燃え続けていた。