20.魔女狩り

落下していくダン国王は身を屈めると勢いよく床を蹴る。床の瓦礫は弾かれたように落ちていくとダン国王の体は天井近くまで飛び上がった。

 

「う…そ…」

クリスの目の前に着地する。その衝撃でクリスは思わず魔導書を落としてしまう。

「しま…だぉっ!!」

ダン国王の平手打ちがクリスの脇腹に打ち込まれると回転しながら壁にまで弾き飛ばされた。壁に激しく叩きつけられたクリスの体は逆さまに落ちて四つん這いの状態で着地した。

 

「う…ガハッ!」

口から激しく吐血する。

「な、内臓が…」

立ち上がろうとするも足に力が入らない。

「わたくしとしたことが…こんな…」

壁が崩落しクリスの体へと覆い被さる。

「ああああっ!!」

身動き取れないクリスにダン国王が近付いてくる。

 

「グゴァ…ブ…無様だな!妖の蒼月よ!俺の…血肉になれぇぇーっ!!」

「ふふ、まだ人の言葉を覚えていたんですの?このバケモノ!!」

「グォッ!!」

向かってくるダン国王の前に魔力の壁を作り接近を拒む。だがダン国王の力に壁が歪む。

「ぐ…回復まではまだ時間がかかりますわ!」

「ぬぐぐぐっ!!るおぉぉぉぉっ!!」

魔力の壁が破砕されるとダン国王は勢いを増して接近してくる。両腕でしがみつかれる瞬間にクリスは右手から光弾を連射し食い止める。

「効かぬ!効かぬぞぉぉぉ!!」

「本命はこっちですわ☆」

クリスは左手で溜めておいた魔法を放つ。火球が一瞬留まると槍型に変形し弾丸のように撃ち出される。

「ぬっ!?それぞれで違う魔法を!?」

それはダン国王の腹部に突き刺さると体が瞬時にして炎に包まれた。炎はまるで蛇のように全身をうねりながら回転し内側と外側を焼きつくそうとする。

 

「ほほほ☆いい気味ですわ☆」

クリスはフラフラと立ち上がり落ちている魔導書を拾うと土埃を払った。

振り向いた瞬間ダン国王の体当たりを受けて弾き飛ばされた。

炎が服に延焼しクリスはすぐに魔法で打ち消した。

 

「この服はお気に入りでしたのよ。それをよくも…」

ダン国王の皮膚はさらに焼け落ちて筋繊維が金属のように光り輝く異様な姿になっていた。

 

「ぐふふ…この世界は素晴らしい!俺が思い描く理想が全て形になる!!」

「ほう…この不浄セカイの理を理解しているのですね。つまりあなたは自我に目覚めたと?」

「何度となく繰り返された世界で俺は理解したのだ。この世界は作られた世界だと。そしてその世界を作り上げたのは俺自身。だがお前の姿を見た時に俺は確信したのだ。俺はもう既に死んでいたのだ…と」

「死を思い出したのですね。人は死を忘れて生きている。親も友人も家族もみんな死ぬ…。ですが、その死からも置き去りにされたわたくしの孤独。この果てしなく広大なデスドアで再び知り合いに出会うことなど稀でございますわ」

「妖の蒼月がお前だったとはな。俺の命を奪ったあの小娘が伝説の魔女となって再び俺の前に現れるとはなんという因果か。だがこの世界に貴様がいるということは」

「わたくしは現世とこのデスドアを自由に行き来できますの☆わたくしは死を超越した存在。そしてあなたを再び滅ぼしますわ☆」

「カリギュラのことか?」

「カリギュラ…お母様を処刑したのは許せませんわ。あなたを何度殺しても気が済むことはありません。親を殺された子の悲しみは命ある限り癒えることはありません。何百年経とうとも!!」

クリスは魔導書を開き詠唱を始める。

 

「ぐふふ…貴様となら俺の野望を叶えられると思ったんだがな」

「あなたの野望ですって?」

「そうだ、現世とこの世界を繋げてひとつにするのだ」

ダン国王の言葉にクリスの眉が上がった。