「この…クソ野郎!!」
ロウファは力を振り絞りハンマーを振り下ろした。しかしその一撃をダン国王は片手で受け止めハンマーを奪い取ると無造作に放り投げた。
「貴様の血を全ていただくぞ!」
ダン国王が大きく口を開けると複数の大きな牙が口腔内から生えだした。
「う…うわぁぁぁ!!」
ロウファは抵抗するがその首筋に牙が突き刺さる。ロウファの体が内側から引っ張られるように萎み骨格があらわになる。
「ンゴォー…」
声にならない悲鳴と共に両目が反転し両手が力無く垂れ下がった。
「ぐがっ!ぐむっ!」
ダン国王はロウファの血を吸い出していた。
「力が湧き上がる…!」
ロウファを無造作に投げ捨てた。糸の切れた操り人形のように転がり仰向けに倒れる。その顔色は完全に真っ白になっていた。
「ふふ、相変わらず野蛮人ですわね☆生きてた頃の方がおとなしかったかしら?」
「妖の蒼月…待ち焦がれたぞ…お前の血をいただこう」
「残念ですが、わたくしの血を飲んだとしても不老不死にはならなくてよ☆もしなるのでしたら飲ませたい方が何人いたかしら☆少なくとも…あなたは対・象・外ですわ☆」
「ならば貴様の肉を食らえば良いのだろう?」
「できるかしら…?」
クリスは突進し持っていた死神の大鎌を振り抜いた。刃はダン国王の腕で止まりその衝撃はクリスの腕を伝わり背中へと突き抜けた。大鎌は粉々に砕けると変化が解けて死神カラスの肉片が床に落ちた。
「はっ!」
クリスはすぐに光弾を放ちダン国王との距離を取ると魔導書を取り出した。
「かぁーっ!!」
ダン国王が突進してくる。
「猪突猛進ですこと☆」
クリスが手を差し向けると部屋全体の空気が振動し凝縮すると巨大な空気の塊が放たれた。
「ぬぐぅっ!」
ダン国王は両腕を広げ体でまともに受け止める。
「甘いですわ☆」
クリスは再び詠唱し空気の塊に水蒸気を放つ。すると激しく回転し電気が発生した。眩い雷光が迸りダン国王の体を包み込んだ。
「ぐおぉぉっ!!」
ダン国王は感電し動けなくなる。牙がガチガチと音を立てて震えている。
クリスは再び詠唱を始める。そして指で印を結ぶと魔法陣が現れ中心から光線が放たれた。
「おおぉぉっ!!」
ダン国王が光の中に消えていった。
「普通の人間なら電撃で感電死ですわ☆因果なものね…現世でもこの不浄セカイでも私に滅ぼされるとは…」
魔導書を閉じる。倒れているロウファに視線を送る。その皮膚は干からびてミイラのように小さく萎んでいた。すでにブラックは姿を消していた。
「さすがに…もうダメかしら?」
「…不浄セカイが消えない?」
ダン国王を包んでいた光が徐々に消える。真っ黒に焼け跪いてるダン国王の姿があった。
「あら、こんがり焼けてますわね☆あの威力なら骨も残らないかと思いましたわ」
クリスは近付き様子を伺う。皮膚は完全に焼けて炭化しひび割れた箇所からは沸騰した血液による水蒸気が舞い上がっていた。
「ゴミは完全に焼き尽くさねばなりませんわ☆」
魔導書を開き詠唱を始める。するとダン国王の皮膚のひび割れが大きなり内側から筋肉が露出し始める。
「な…まだ…生きていますの!?」
皮膚が一気に弾け飛びクリスの体に飛び散った。中から真っ白な体をしたダン国王が現れた。
「ふふ、本当にドラキュラになられたようですわね…」
ダン国王はゆっくり立ち上がると獣のような咆哮を上げた。部屋の壁が振動し細かいひび割れが走る。
「なんて声ですの!」
クリスは思わず耳を塞ぎ身を屈めた。
ダン国王は大きな牙を口から露出すると両手を床に叩きつけた。一瞬クリスの両足が浮き上がると床が陥没し崩れ始める。
「ゆ、床が…!?」
クリスは崩れていく床の瓦礫を飛び移り落下を回避する。振り向くと落ちていくダン国王の姿があった。
「自爆なんていい気味ですわ☆」