リスティは緊張のあまりか疲れて眠っていた。テレッサはリスティに毛布をかける。
「この国は狂ってるのさ。子供は幸せの中で育つのに…私はその子供に手をあげなきゃならない。娘の命を守るためにこの手で撫でる代わりに殴るのさ。こんなに辛い事は…ない」
テレッサはリスティを撫でる。
「…テレッサ」
「本当はリスティに優しくしたい…けれど家の中で優しく、外で厳しくしたら子供はその二面性に耐えられないだろう。私は…娘が大きくなってこの国から出ていくまで鬼のような母でいなきゃいけないのさ。この国にいてはいけないから…」
「リスティを連れて出て行けばいい…」
シュクレンがそう言うとテレッサは首を横に振る。
「人口流出を防ぐために子供はこの国を出れないのさ。子供を置いて親も国を出れないだろう?」
テレッサは気丈に振る舞ってはいたが一人の母である事に変わりはなかった。
突然街が騒がしくなった。
異変に気付いたシュクレンは外に出ると先程城に連れていかれた女が倒れていた。
駆け寄るとその姿は一変していた。
衣服は一切身に付けておらず、体中に小さい穴が無数に空いていた。
両目も潰れて微かに息をしていた。「うぉぉ…あぉ…」
女は泣いているのか呻いている。
「これは…何…」
穴は規則正しく空いている。
女は酷く怯えていて糞尿を垂れ流していた。
「誰か…助けて…」
シュクレンは周りに訴えるが視線を逸らす。テレッサが肩に手をかける。
「助けたら助けた者もそうなるのさ…だから誰も助けられない…」
「…そんな…」
「それがこの国の法律なのさ…」
しばらくすると女は痙攣を起こし息絶えた。先程まで美しく着飾っていた女が今は惨たらしい姿で横たわっている。
この国は狂気に満ちていたのだ。
建物の屋根に留まっていたカラスが鳴いていた。
シュクレンは家の中に入るとリスティの部屋に行く。そして窓を開けるとカラスが入ってきた。
「クロウ…」
「酷いセカイだな!一部始終を見ていたが…女が美しくなれないなんてな。劣等感から生み出される美への執着だ。あの王妃の容姿を見たろ?酷いもんだぜ!あの仮面の下はどうなってるのかわからんがその表情は鬼のような醜女に違いねぇ!」
クロウはまくし立てるように喋る。
「どうしたら…いい?」
「もう少し静観した方が良さそうだ。あまりでしゃばるなよ?いくらお前でも今は多勢に無勢だ。まだ不浄は特定出来てないが…あの王妃が怪しいがまだ確定的じゃない。俺様はもう少し調査をしてみる。もう一回言うが…あまりでしゃばるなよ!俺様がいないお前なんて普通の女と変わらんからな!」
「うん、わかった…」
シュクレンが頷くとクロウは再び空に飛び立った。それと同時にリスティが部屋に入ってきた。
「シュクレーン!誰と喋ってたの?」
リスティは無邪気な笑顔を向ける。
「う…発声練習…」
「はっせいれんしゅう?」
リスティは発声練習がわからないようだ。
「うん…声を出す練習…」
シュクレンはアーアーと声を出す。
「シュクレンって歌うんだ!?わたしに聴かせてーっ!」
リスティは飛び跳ねながら拍手する。
「え…」
シュクレンは失敗したと思った。