6.夏の思い出

「この思い出だけは…この思い出だけは消したくない!ばあちゃんとの思い出は大切にしたいんだぁーっ!!」
亮太の叫びと共に突風が起こる。その風は刃となりシュクレンの服を斬った。

「…くっ!」

「どうしてシュクレンはこのセカイに来たの?おれはここでずっと静かにばあちゃんと暮らしたいだけなのに…」
風が駆け木々の葉を激しく揺らし、吹雪のように葉が乱舞する。その葉の一枚一枚が刃物のように鋭利になっていた。

「…亮太…それは…駄目…できない…」
「どうしてだよっ!!」
怒号と共に風が壁のように迫りシュクレンの体を吹き飛ばす。

「あぅっ!!」
手から鎌が離れた。

「この思い出は絶対に消させない!おれはおれでいたい!そしてばあちゃんとずっと一緒にいたい!」
木の葉が地面より舞い上がり空中で渦を巻く。
「…亮太…魂は…永遠…でも…想いは…終わりがある…だから…」

「終わりなんかない!!!」
渦は竜巻になりシュクレンに襲いかかる。

「シュクレン!」
落ちた鎌がカラスの姿に戻りシュクレンの手に飛び留まると再び大鎌になる。

「風を斬れーっ!」
大鎌が唸りをあげて竜巻を真っ二つに割いた。
「おれはばあちゃんと暮らし続ける。だからここでシュクレンを倒す。絶対におれはこの生活を失いたくない。ずっとずっと夏休みは続くんだ!!」
つむじ風が幾つも発生して刃物と化した木の葉を巻き上げる。
「ちっ…竜巻はいくらでも作れるってわけか。シュクレン!あの竜巻を食らったらひとたまりもない。うまく竜巻同士をぶつけるんだ!見た所一つ一つの渦の方向が違う。ぶつけたら相殺出来るはずだ!」
シュクレンはつむじ風を誘導しぶつけると風が弾けて消えていく。だが、次から次へと現れてキリがない。
「亮太~カルピス出来たよぉ」
「…!?」
お婆さんが現れるとその体が大きくなり、蝉のような羽根が生えた。
「ちっ…そうか。お前も不浄か!?シュクレン!あのババアを狙え!」
「…わかった」
シュクレンは大鎌を大きく振りかぶるとお婆さんに向けて振り上げる。すると羽根が大きく震え凄まじい轟音と共に衝撃波がシュクレンの体を吹き飛ばした。
「…う…何…」
耳鳴りがして何も聞こえない。鎌から伝わる僅かな振動でクロウが何かを喋っているようだが何も聞こえなかった。髪の毛も震えてセンサーの役割を果たしていなかった。
突然後ろから突風が吹き刃と化した木の葉によって背中が切り刻まれた。
徐々に聴覚が回復する。
「シュクレン!聞こえるか!?どうやらあのババアには直接攻撃力は無いようだ。だがこんな衝撃波を出されたらお前のセンサーは役割を果たせない!亮太を倒さなきゃ終わらないぜ!!ここで隠れられる場所は一つしかない!そこへ向かえ!!」
シュクレンは鳥居の回廊を走る。後ろからはお婆さんが蝉のように飛び追いかけてくる。
「来るな!来るな!!来るな!!!」
正面から風が何度も吹き出してくる。回廊を抜けると広場に到達する。小さな本堂がそこにあった。

「シュクレン!奴の本体は本堂にいるぜ!本堂ごとぶった斬れ!」
本堂まで跳躍しながら大鎌を振り下ろす。
本堂が崩れて亮太が露わになった。

「…見つけた」

「あ…ああ…」
亮太の目が怯えていた。