「これは死神の仕業なんだ…死神が…死神がお母さんを…僕が…死神を殺す!!」
震える声で精一杯絞り出しすように喋ると立ち上がる。その足元はおぼつかずフラつきながらどこかに行こうと歩き出す。
「…カイト…やめて…駄目…」
シュクレンがカイトの手を取り制止にかかる。
「離して!お母さんの仇を取るんだ!!」
激しく手を振りシュクレンの手を突き放そうとする。
その時、二階からガタンと何かが落ちる音がした。
「!?」
二人の呼吸が止まりお互いを見る。
「お、お父さんの部屋だ…死神はお父さんの部屋に隠れているんだ!!シュクレンは電話で警察に連絡してここで待ってて!」
「ケーサツ…デンワ?」
シュクレンは電話がある方を見る。しかし、それは警察に繋がらない事は明らかだった。
カイトは犯人がいると思われる二階へと上がっていく。
「カイト…駄目…」
シュクレンが後を追うように歩き出すと既に息絶えたはずのアリッサがシュクレンの足を掴んだ。
虚空を見ていた目がギギギと動く。
「なぜ…あなたは…ここに来たの…このまま…放って…」
「…私は…」
シュクレンの回答を待たずにアリッサは再び沈黙する。鮮血に染まった首元とは裏腹に顔色が青白くなり、完全に死人の顔となった。
「カイト…」
階段を上がりカイトを追う。
廊下のつきあたりの部屋の扉は開いており、カイトが土下座をしている様に倒れている。前には黒い影が立っていた。
部屋の照明による逆光のせいにしてはやけに黒くぼんやりとしていた。
「死…神…?」
「んね……ね…ん…」
死神は微かに何かを呟いていた。
「カイト!」
シュクレンはカイトに声をかける。
まだ息はある。
しかし既に助からないのは一目でわかった。カイトの周りは大きな血だまりが形成されており、床を這うようにシュクレンの足元にまで流れてきていた。
「ごめ…ん…ごめん…ごめんね」
死神は何度も呟きながらシュクレンに近付いてくる。その声はより鮮明になり、か細く震えていた。
「死…神…死神…?」
後退りしていくとドアが背中に当たり、やけに重厚な音を立てて閉まった。慌ててドアノブを回そうとするが固くて回らない。
「ごめん…ね…ごめんね…ごめんね…」
死神は鋭く光る刃を頭の上にかざし振り下ろす。
「シュクレン!」
瀕死のカイトがシュクレンを突き飛ばし、影の刃物を回避する事ができた。
「早く…逃げて…ここから…」
肩で大きく息をしているが左胸からは大量に出血しており、呼吸のたびに血が噴き出していた。
「駄目…逃げられないの…だってここは…」
シュクレンが右手を差し出すと窓のガラスが砕け散り一羽のカラスが現れると右手に留まった。
「クロウ!」
名を叫ぶとカラスが黒い光を放ち、体を長く変形させていく。その姿は黒い大鎌となり、シュクレンの体の周りに黒い光が迸ると白い服に黒い紋様を浮かび上がらせた。髪の毛の束が3本立ち上がる。
「カァーッ!待ちかねたぜ!この瞬間をよぉ!死神気取りの不届き者の魂をいただくぜ!行くぞ!シュクレン!」
クロウの言葉に頷くと死神との間合いを一気に詰める。
「ごめんね…ごめんね…」
死神はシュクレンにナイフを突き出すが大鎌に弾かれ、右手が大きく反り返った。
「死して尚、殺戮を止めない死神気取りは迷わず成仏するんだな!俺様を振れ!シュクレン!」
シュクレンが大鎌を水平に振ると死神の腕が切断される。切断された腕はそのまま床に落ちると溶けるように消えていく。
「ギャアアアァァァァッ!!」
そして死神も悲鳴と共に徐々に薄くなり消えてしまった。
「消えた…」
部屋を見渡すが隠れられるような場所はない。
「おい、シュクレン!奴の魂はどこだ?どこにもないぞ!」
「消滅した…」
「そんな馬鹿な!魂が無いなんてあるわけない!まだ奴は…おい!後ろ!?」
クロウの叫びにシュクレンが後ろを振り向くと死神がナイフを下ろそうとしていた。やけに血走った目だけがギラギラと光っていた。