3.紅い死の微笑み

「しっかしすごい町ね~よくあんな断崖絶壁に家を作ったわね!?」
キリコはキョロキョロと辺りを見回す。断崖絶壁から張り出すように家が何軒も並んでいた。
「あれは元々坑道だったんだよ。そこに杭を打って家を作ったんだ。この辺は坑道だらけで地面に家を建てると地盤沈下する可能性があるんだ。だから昔の坑道跡を使って家を建てるんだよ」
「へぇ~、もっともこんな谷間じゃ平らな地面も少ないから当然っちゃ当然よね!」
「ところでキリコはなんでこの町に来たの?どこから来たの?」
リュックの質問にキリコは少し考える素振りをする。
「あたいは世界を旅してるのよ!相棒のノスタルジアと共に世界の全てを知るために!たまたまこの街に辿り着いたのさ」
「へぇ!カッコいいね!僕もいろんな世界を見てみたいよ!」
リュックは谷間から見える空を眺めて言った。

「ん?あれ何かしら?」
キリコが指差した方を見ると体の大きな男が何人かの炭坑夫らしき男達に尻を蹴られながら歩いてきた。

「や、やめてくれでゲス!」
大男は体躯の割に大人しく無抵抗で背中を丸めて怯えている。

「お前が馬鹿力で杭間違って叩くもんだからこっちは死にかけたんだ!このやろう!」
炭坑夫は何度も大男の尻を蹴る。

「ひ、ひぃぃいっ!」
蹴られる度にうわづいたような情けない声を出す大男。

キリコは呆れてため息をつきながら男達に近付いていく。
「ちょ…おい、キリコ!」
リュックが制止するもキリコは気にせずに男達に近付く。
「ちょっとあんた達!いい加減にしたら?怯えてるじゃないのよ!」

「な、なんだぁお前?この辺で見た事ねぇ姿だな?」
炭坑夫は舐めるように上から下までキリコを見る。
「おまけにいい胸してるじゃねぇか!」
男はキリコの豊満な胸を見て鼻の下を伸ばし舌なめずりをしている。
「ふぅ、あんたが不浄とは思えないわね…用はないわ。さっさと消えて!」
キリコを犬を払うように右手を振る。

「なんだこのガキ!!」
その態度に炭坑夫が殴りかかろうと拳を握り振りかぶった。
「キャッ!?」
キリコは思わず身をすくめ目を瞑る。
そっと目を開けるとリュックが立っていた。

「キリコに手を出したら僕が許さないぞ!」
リュックは男が振り上げた腕を握り睨みつけていた。
「リュック!?てめぇ先輩に向かって…くっ、後で覚えてろよ!」
炭坑夫達は地面に唾を吐いて歩いていった。

「ひっひひっひひぃ~!!」
大男は身を丸めたまま奇妙な笑い声を出している。ズボンがだらしなく垂れ下がり尻が半分見えていた。

「何あれ…?気持ち悪い…」
キリコが怪訝な顔をする。
「あいつはグレッグと言って体だけ大きい意気地なしさ。いつもああやって虐められてるけど、案外まんざらでも無さそうだから僕は関わらないんだ」

「ふ~ん…まさに木偶の坊ってやつね」
キリコは腕組みをし、ため息交じりに言う。

「ところでリュック!あなた強いのね!驚いたわ!弱そうな男達だったけどあの人数相手に凄むなんて出来ないわよ!」
キリコが微笑むとリュックは大きなため息をついた。
「ああ怖かった!」

キリコとリュックは見つめ合い笑った。