2.紅い死の微笑み

「ねぇねぇ、あたいお腹空いてる上に泊まる所ないんだ!君の家に泊めてくんない?」
キリコがリュックに顔を近付けると視線を逸らし後ずさる。

「ええ!?ぼ、僕の家に!?まぁ…いいけど…もうちょっと待ってくれる?まだ仕事中なんだ」
リュックはそう言うと足場を降り始める。
「リュック!そんな所で何してる!?飯はまだか!?」
下から野太い男の声がする。
「親方!女の子が…」
続いてリュックの声がするとまるで丸太を叩いたような鈍い音がした。

「お前は女といちゃついてたのか!?飯が冷めるだろ!!」
男が激しく怒号を上げる。
「いってぇ!だから女の子が…」
再び親方の拳骨がリュックの頭に叩きつけられた。
キリコはその光景を見ていてクスクスと笑っていた。

「このセカイは面白いわ!もっと遊びたいわね!まんまあのアニメのようだわ!」
「キリコ!あなた仕事の事忘れてるんじゃないでしょうね?あなたはいつもこうやって一つの仕事に時間をかけるんだから…」
ノスタルジアがキリコを睨む。

「もちろん忘れてはいないわよ!ただ簡単にチャチャチャっと片付けるのが勿体ないのよねぇ!それよりもノスタルジアは早く不浄の特定を進めてちょーだい!あたいはいろいろと忙しいのよ!」
「はいはい、遊ぶのに忙しいんでしょ!?」
ノスタルジアは不満げに言葉を吐き捨てる空に飛び立つ。キリコは満面の笑みで手を振り見送った。

翌朝。

キリコはボロボロのベッドで目を覚ます。
「もう少しいい所だと思ってたのに…それにちょっとカビ臭いわ…」
窓の外は既に明るく高台にあるリュックの家からは鉱山の町が一望できた。
断崖絶壁の間に築かれた町は狭くいくつかの路地が複雑に存在していた。
眼下を鳩の群れが飛んでいくのが見えた。町は既に多くの人達で賑わっている。
「これじゃ、不浄の特定には時間がかかりそうだわね。それにこの人達…随分強そうな不浄だわ!ん?」

部屋の中に美味しそうな匂いが立ち込める。それに誘われるようにベッドから起きると着替えて階段を降りる。
キッチンではリュックがフライパンで目玉焼きを焼いていた。

「おはよう!今朝ごはんできるからちょっと待ってて!」
「へぇ、意外と手際がいいのね!上手だわ!」
キリコが頭を掻きながら感心している。
「僕はずっと1人で暮らしてきたからね。料理もお手の物さ。まぁ、材料は乏しいけど…」
「両親はどうしたのさ?一緒に住んでないの?」
キリコは目を細めて質問を続ける。

「父さんは落盤事故で亡くなったんだ…。母さんは気苦労から病気になって…死んじゃった…」
「あんた意外と苦労してるのね」
「意外とってなんだよ」
リュックは困り顔でフライパンから目玉焼きを皿に移した。

「ところでさ!この町を案内してくんない?まだ仕事じゃないんでしょ?」
キリコは身を乗り出しリュックの顔を見つめる。
リュックは思わずキリコの鳶色の目に吸い込まれるような美しさを感じ頬を紅くする。
「う、うん、いいよ。まだ時間あるし…」
リュックは動揺して視線を泳がせた。

「やったー!早速ご飯食べたから行きましょう!!」
キリコはすぐに扉を開けて外に飛び出た。
「早っ!?もう食べたの!?」
リュックはオドロキながらも小さくため息を吐くとキリコの後に続いて外に出る。