7.学校

それは記憶なのか幻想なのかわからなかった。痛みによる混乱なのか、或いは失われたはずの記憶が蘇ってきたのは定かではない。
しかし、それはあまりにも鮮明で現実的だったのだ。

「ねぇ、あたしって遺書残して自殺しちゃった方が良かった?そうしたらあたしを虐めた連中をこらしめる事ができた?後悔させて反省させることができた?それとも自主退学したら死なずに済んだ?ねぇ!普通の暮らしって何?普通ってなんなの?ねぇ!答えてよ!教えてよ!!」
更に深く突き刺さる。血が勢いよく噴き出した。

「あ…がっ!!」
一瞬、首から加奈の手が離れ重さから解放された。シュクレンの目に一瞬だけ赤い髪が見えた。

「あ…」
そこには満面の笑みを浮かべたキリコがいた。
「シュクレン!会いたかったわ!」
「信じられない!自分の仕事無視して来ちゃうなんて!」
ノスタルジアが不満を言いながらキリコの周りを飛び回る。

「キリ…コぉ…」
シュクレンは震える手をキリコの手に伸ばす。キリコはその手を両手で握り何度も頷く。
「シュクレン、怪我して可哀想…もう大丈夫よ、あたいが来たから!そこでゆっくり休んでて!」
キリコはシュクレンに素早く応急処置を施すと加奈を睨む。加奈はよろめきながら立ち上がると両手を広げ攻撃態勢に入る。
しかし、キリコの異様なまでの眼力に気圧(けお)される。
「どうして…あんたはともかく何故カラスが入ってこれる?カラスは入れないはずなのに…」
加奈は震えながら後ずさりする。

「普通のカラスはね!ノスタルジアは普通のカラスじゃないの。あたい達の仕事は不浄の魂を回収する事じゃないの。あんたの作った結界じゃあたい達には通用しないわ!」
キリコは不敵な笑みを浮かべた。

「まさか…」

「あたいの仕事は魂を滅する事!ソウルイーターよ!!」
キリコの顔から笑みが消えた。

「ソウル…イーター…!?」

「あなた随分酷い生涯送ったみたいだけどだいぶ歪んでいるわ。少しは同情するけど…あたいの友達傷付けた事は絶対許さないわ!それにきちんと出動要請も出てるわ。これだけの死神を屠ったのならば相当危険な不浄と判断されたわけ。抹消命令よ!!」
キリコの右手にノスタルジアが留まる。

「あたしは…!消されない!絶対に!せっかく永遠の自分の居場所を見つけたの!ずっとここにいるのよ!消されてたまるものかぁ!!」
加奈が先制攻撃を始める。刃物と化した手を振り回すがキリコは見事な体捌きで回避している。
ノスタルジアが思わず天井まで飛び上がる。
「キリコ!早く私の名を叫んで!」
「まだ大丈夫よ!すんなり滅したんじゃあたいの気が済まないわ!!」
スキをついて加奈の足を引っ張り転倒させる。
「くっ!?」
加奈は立ち上がろうとするがキリコは掴んだ足を離さずそのまま勢いつけて体ごと回転し始めた。
「うああああっ!!」
「デスドアの外まで飛んで行きな!!」
キリコは加奈を放り投げる。しかし加奈は壁に着地すると体勢を整え、そのまま壁を蹴ってキリコに突撃する。
「うがぁぁっ!!」
両手をクロスさせハサミのように攻撃する。キリコはそれを難なく躱し脇腹にパンチを見舞った。
加奈は体が“く”の字に曲がり弾き飛ばされ、床に倒れると勢い余りそのまま転がり滑っていく。
「ふん、ざまぁないわ!あたいのゲンコツは痛いでしょ!」
キリコは拳をぎゅっと握った。