3.学校

「ここが学食!とっても美味しくて安いんだよ!」
加奈は券売機を指差す。

「超人気メニューのロースカツ定食!ここって進学校だからカツとか縁起がいいのよね!でも私はこれが好き!」
加奈は焼きそばパンを押す。
するといつの間にかカウンターに焼きそばパンが2つ並んでいた。

「…」
シュクレンはぼんやりと厨房を見るが人の姿はない。

「今日は私のおごり!どうぞ!」
加奈はシュクレンに焼きそばパンを渡す。
「…ありがとう」
「ね!私の秘密の場所に行こう!」
加奈はシュクレンの手を握り走る。外はいつも間にか雨が止み、雲の切れ目から光が差していた。連絡通路を抜け、細い階段を上がっていくと中庭のような場所に出る。そこに木が一本生えており、根元には白いベンチが置かれていた。
そのベンチに腰掛ける。

「ここあまり人来ないんだ!静かに食べるのが好きなの!」
加奈は焼きそばパンを頬張る。

「美味しい!どうぞ召し上がれ!この特別なソースが味の決め手よ!」
「…うん」
全てが静寂に包まれていた。
「ねぇ、シュクレンあたしの友達になってよ!」
「…トモダチ?」
「うん、友達!実はあたしこの学校に友達いないんだ…。みんなと毛色が違うっていうか。でもあなたとならいい友達になれそうな予感がするわ!だってここに来てくれたんだもの!」
加奈はシュクレンの手を握ると満面の笑みを浮かべた。
「…加奈…笑ってる…」
「うん?そりゃ笑うよ!」
「…なんで?」
シュクレンの問いに加奈は少し考える素振りを見せる。
「うーん、笑うとね、嫌なことを忘れられるの!辛くても笑ってると本当に笑える事がやってくるのよ!だからシュクレンも笑おう!ね?」
加奈の屈託のない笑顔に一瞬戸惑いながらも笑おうとするが顔がぎこちなく動くだけだった。
「…笑えない」
「どうして笑えないの?何か過去に辛いことがあったの?」
加奈の問いに適当に頷いた。笑えない理由はシュクレンにもわからなかったからだ。

「そっか…でもいつか笑えるよ!きっと!そんな時が来るよ!あたしもシュクレンの笑顔が見れるように、一緒に笑いあえるように頑張るね!」
「…うん。ありがとう」
食事を終えた二人は再び校舎に戻り、日が差す長い廊下を歩く。

「さっきも話したけど、あたしはこの学校が大好きなんだ。ここの可愛い制服を着るために凄く勉強したの!めでたく推薦入学!」
「…凄いね」
「でもね、実を言うと家貧乏だからさ、学費とかでよく両親は喧嘩したの…あたしがいなきゃ普通に仲のいい夫婦なのよ。入学金はバイトで賄ったけど…入学したあともすごくお金がかかるの。お父さんは不景気で勤めていた工場が閉鎖になって収入が無くなったのよ。それからあたし達家族は壊れていったの。お嬢様学校なんて言われてるけど、生徒達は下劣な人間の集まり…人のことを思いやれない建前だけで生きてる血の通ってないハリボテ人形…あたしなんて他のお金持ちお嬢様の格好の虐めの標的…。だってお洒落も出来ないし毎日お風呂にも入れないの」
加奈の顔から笑みが消えた。手が固く握られ小さく震え下唇を噛み涙を堪えている。

「…加奈?」

「苛められたの…酷いのよ…毎日地獄…来る日も来る日も苛められた。でもね、家にも居場所がないの。あたしなんて生まれて来なきゃよかった存在なの。ただこの学校に来ている事が私の唯一の誇りなの。唯一あたしの存在を肯定して許される居場所なの」
加奈は一瞬シュクレンを見てニコッと笑った。