「あたしは学校好きだよ!唯一のあたしの居場所なんだ!あたしを肯定してくれる場所!見て!この制服可愛いでしょ?」
加奈は胸に手を宛てがうと目を輝かせた。
「…うん、可愛い…」
「うふふふ、この学校はあたしの居場所なの!あたしはこの居場所を守るためだったらなんでもするわ」
「居場所…?」
加奈から笑顔が消えていく。
「うん。あたしの家庭うまくいってないんだ。お母さんとお父さんはいつも喧嘩ばかりしてるの…きっとあたしのことで喧嘩してるのよ。一人娘は辛いのよね。期待されちゃってたりして。それに応えなきゃって無理しちゃうの!すごく背伸びしてできそうもないことも頑張ろうって。あたしが頑張ればお母さんとお父さんは仲良くなるはずなんだ。そうしたら昔のように家族みんなで仲良く暮らせるじゃない?みんなでニコニコしてくだらないことで笑い合うの!」
「…そう」
「でも大事にしてもらう分には嬉しいんだけどさ、やっぱり子供の前で喧嘩されると嫌だよね。結局あたしが生まれて来なきゃ喧嘩しなくて済むんだしさ…あたしなんかいなくていいんだよって…そう思っちゃうよね」
加奈は先程の笑顔を取り戻すとシュクレンに頭を下げる。
「ごめんなさい!初めて会ったばかりのあなたにこんな無粋な話しちゃって…ここが音楽室!」
扉を開けると様々な楽器があった。
「…!」
シュクレンがフルートに駆け寄る。
「どうしたの?」
「私…知ってる気がする…昔のような…そんな昔でもないような…思い出せそう…」
「ふ~ん…そうなんだ」
加奈はニコリと笑うとフルートを手に取る。
「ねぇ!吹いてみせて!」
加奈はフルートを差し出した。
「でも…」
シュクレンは躊躇い受け取ろうとしない。
「大丈夫大丈夫!これ誰も使ってないし!何か吹いたら思い出せるかもしれないよ。大切な事って絶対に忘れないんだよ。思い出せないだけで。だからこれが思い出すきっかけになるのなら吹いてみるべきよ!」
シュクレンにフルートを握らせる。
「シュクレン演奏会を開催しまーす!皆様!盛大な拍手を!」
加奈は拍手をする。
シュクレンは頬を真っ赤にしフルートを構えた。不思議な感覚が胸に広がり、懐かしいような気がした。
息を吸うとフルートに息を吹き込む。
その音色は透明で瑞々しい響きだった。指が無意識に動き、音を探り出す。
校舎に反響するように、そして隅々まで響き渡るように音が通っていく。
加奈は驚き、風のように通り過ぎていく旋律に聴き入った。
「すっごーい!前の学校では吹奏楽とかやってたんだね!心に響いたよ!なんか心をくすぐられたような感じ!この大事なところをギュッと掴まれたような感じもするわ!」
加奈がピョンピョン跳ねながら拍手をしている。
シュクレンは真っ赤になり俯いた。
「あなた凄い才能あるわ!きっと音楽関係のお仕事に就くのね!歌も得意なのかな?良かったら聴かせてよ!シュクレンの歌声を聴いてみたいわ!きっとセイレーンのように歌うのかな!」
加奈は目を輝かせてるがシュクレンは首を横に振る。
「歌は…駄目って言われてる…」
「ん~?誰に?」
「…クロウに」
「クロウ?誰それ?音楽の先生?」
「…うん」
「大丈夫よ!前の学校の先生が何と言おうともここは新しい学校よ!問題ないよ!今度一緒に歌おうよ!二人でいろんなことに挑戦しよう!いろんな思い出を作っていこうよ!」
「うん…」
加奈は何度も頷くとお腹を擦る。
「ねぇ、お腹空かない?まだお昼には早いけど食堂案内するね!」