12.鋼鉄の処女

「テレッサ!」
シュクレンは倒れてるテレッサに駆け寄る。

「思い出した…私も…とっくに…死んでいたんだね…最後まで…リスティに…優しく…できなかった」
テレッサは涙を流す。
するとシュクレンが身に付けていたイヤリングが落ちた。

「あ…」
小さな手がそれを拾い上げた。振り向くとリスティがいた。

「リスティ、お母さん大好き!大好きだよ!」
リスティがテレッサの手を握る。
「リスティ…ごめんね…」
テレッサはリスティの手を強く握り返した。

「シュクレン!ありがとう!シュクレンと遊んで楽しかったよ!大好き!また遊ぼうね!」
リスティが笑った。

「…リスティ…」
そして二人は手を握ったまま光の粒になるとガラス玉のような魂になった。

城に亀裂が生じ砂のように崩れ始める。
その瞬間、目の前に花畑が広がった。
そして、目の前に可憐な少女の姿をしたイルーヴォが花を詰んでいた。
「これあげる!」
イルーヴォは花を編み上げて作った冠を差し出す。
「…ありがとう」
イルーヴォは満面の笑みで頷いた。
「…笑ってる。どうして?本当は…辛いのに…」
シュクレンがそう問うとイルーヴォは首を振った。
「もう辛くないよ…あなたに解って貰えたから!私はこの花畑を全て独り占めにしようとしてたの。でもね、あなたにお花の冠をあげてもまだたくさんこんなに咲いているの!」
イルーヴォは大きく手で円を描くと手を広げた。
そして花畑の向こうへと駆けていった。やがて花畑は消えて目の前には瓦礫が積み重なり荒廃した大地のデスドアが広がっていた。

「…楽しい?…大好き?」
シュクレンは3つの魂を拾うと立ち上がり袋へと詰めた。

「やっと魂を回収できたな!強敵だったな!」
クロウが肩に留まる。

「…」

「おい!なんか喋れよな!」

「…」

「お前怒ってるのか?」
「クロウ…最初に私が呼んだ時に来てくれたら二人は助かった…」
シュクレンはクロウを睨む。

「あのなぁ、あそこであの醜女をやっつけても肝心の拷問具は壊せなかったろ!?それにあの少女は元々あそこで死ぬはずなんだよ。そうしたらまた最初からやり直しだ!俺様なりに調査してうまく導いてやってたんじゃねぇか!」

「でも…一度死んでいるのにまた殺されるなんて…」

「そういうセカイなんだよここは!狂気と我欲が満ちてる不浄のセカイなんだよ!俺達はそんな夢を断ち切るために存在している事を忘れるな!むしろ強い魂に虐げられてきた魂を救えたことを良かったと思え!」
クロウの説教にシュクレンは小さくため息をついた。

「しかし、人間ってのは業が深いというか…あんなに歪みまくった奴もいるんだな!」

「…イルーヴォは…悪くないよ…」
「なんだと?お前散々怒ってたじゃねぇか?」
「…怒ってたけど…悪くないの…よくわからないけど…」
シュクレンは言葉に詰まるがクロウは何となく察した。
「また不浄の魂に触れたな?もしかしてお前は特殊な能力があるのかもしれないな!同情しやすいのにも納得がいくぜ。だが、お前の仕事はわかってるよな?」
シュクレンはゆっくりと頷いた。

このデスドアにはまだまだ迷える魂が存在する。

終わり