9.鋼鉄の処女

魔人と化したイルーヴォ王妃は恐怖政治で人民を支配するようになっていった。
「うわぁぁ!嫌ぁ!」
シュクレンが暴れる。その拍子にイルーヴォ王妃の仮面に手を引っかけ剥ぎ取ると焼けただれた顔が露わになる。
「…その顔…!?」
「ぐ…これが…全ての呪い!顔を失った苦しみなどお前にはわかるまい!!もっと泣け!泣き叫べ!命乞いをしなさい!」
すると入り口からカラスが飛んできてイルーヴォ王妃の顔の前で羽ばたく。

「ふぐぁ…この汚いカラスが!うわっ!」
イルーヴォ王妃がカラスを手で払うとシュクレンが床に落ちる。

「痛っ…!」
目を開けるとクロウがいた。

「クロウ!」
シュクレンが名を呼ぶと黒い光を放つ。シュクレンを縛っていたロープが光に切断され自由になる。
右手を差し出すとクロウは大鎌へと変化した。
黒い光はシュクレンの周りを飛び服に黒い紋様を浮かび上がらせを死神装束へと変化させる。頭には3本の毛束が立ち上がった。

「待たせたな!シュクレン!お仕置きの時間だぜ!」

「クロウ…細かい話は…後で」
シュクレンは大鎌を構える。

「イラララララ!何だいそれは?」
イルーヴォ王妃は鞭で床を叩く。思わず身が竦む。

「絶対に…許さない…!」
シュクレンとイルーヴォ王妃の間の空気が歪む。

「イラララララ!」
イルーヴォ王妃が鞭を振るうがシュクレンは跳躍しかわす。
そして大鎌を振り下ろすがイルーヴォ王妃が後退し空振りに終わる。
地面に着地した瞬間に飛び込み水平に大鎌を振る。
その刃先はイルーヴォ王妃の髪を斬った。
「イオオオッ!!わ、私の美しい髪が!?」
イルーヴォ王妃が床に落ちた髪に気を取られている。シュクレンは間合いを詰めて鎌を振り下ろす。

「イララーッ!」
イルーヴォ王妃の鞭がシュクレンの右手を叩く。
「痛ぁっ!」
一瞬動きが止まる。
「よくも私の髪をぉーっ!!」
シュクレンの顔面に鞭を叩き込んだ。激しい痛みと熱が同時に襲う。

「うああぁっ!!」
シュクレンは顔を抑えイルーヴォ王妃から距離を取ろうとする。
しかし追撃が背中にヒットした。

「熱っ!うぁっ!」
バランスを崩しながらも走り距離をとる。

「イラララララ!」
すぐにイルーヴォ王妃が走り出しシュクレンを蹴り飛ばした。シュクレンは倒れるが受け身を取りすぐに立ち上がる。

「はぁ…はぁ…」
すでに鞭で叩かれた傷が酷く疼き体力を消耗し肩で息をしていた。
「シュクレン!どうした!空振りに体力を使うんじゃねぇ!魂の力の消耗が激しいぞ!」
クロウの檄が飛ぶ。
「イラララララ!私の髪を切った罪は許されない!死を以て償え!」
イルーヴォ王妃は鞭を鳴らす。思わずシュクレンは身を竦める。

「私は…死神…思い出す…自分の死を…」

「死神?思い出す?何を…イラララララ!」
イルーヴォ王妃は高らかに笑う。そして踏み込んでくる。
鞭の一撃を大鎌で受ける。
イルーヴォ王妃がもう一撃と振りかぶった瞬間!
「うおぁぁぁぁっ!」
下から振り上げられた大鎌がイルーヴォ王妃の右腕を刈った。
「イオ…」

右腕は空中をグルグル回り床に落ちた。
切断されたにも関わらず右手は激しく指を動かしていたがやがて動かなくなった。
イルーヴォ王妃はそれを見て放心していた。
それはほんの一秒にも満たない時間だった。
「イラ…」
我に返った瞬間シュクレンの振り下ろされた鎌が鎖骨を砕き左肺を切り裂き左腕がダラリと垂れた。
血飛沫が天井にまで吹き上がる。

「が…がはっ!うぐっ…」
大きく肩から胸に斬られた傷口から心臓がはみ出し激しく動いていた。

「ごはぁっ!」
口からも血を噴き出す。

「うおああっ!」
シュクレンはイルーヴォ王妃を蹴り飛ばした。