3.鋼鉄の処女

突然鳴り響いた鐘の音に驚き飛び起きた。
テレッサが慌ただしく部屋に入ってきてシュクレンを乱暴に揺さぶる。
「起きなさい!早く!」
シュクレンは目を覚ますが頭がぼーっとしていた。目を擦りながら1階に降りていくとテレッサは泥をシュクレンに浴びせた。

「…うあっ!?」
それは家畜の糞も混ざり酷い匂いを放っていた。髪をクシャクシャにされる。

「…何!?やめ…」
シュクレンは抵抗するがテレッサは構わずシュクレンをもみくちゃにする。
しばらくすると酷い姿になった。

「…何で?」
シュクレンは目を細めて聞く。
するとテレッサは小さくため息を吐いた。

「この街じゃ女は汚くみすぼらしくしてないといけないのさ。そういう法律なのさ」
テレッサはそう言うと家の外にシュクレンとリスティを連れ出す。

すると街の人々が整然と並び、その前を様々な宝飾品を並べた絢爛豪華な馬車が走っていく。

「ほら!女は跪かないと駄目なの!」
テレッサがシュクレンの頭を地面に押し込む。
すると馬車が前に止まり中から女が顔を出す。その顔左半分には仮面を付けていた。

「イラララララ!下民!その汚いのは何だい?」
その女は奇妙な笑い声を放つと投げ捨てるように話す。

「イルーヴォ王妃、今日もお美しいお姿。この者は私の姪でございます。一目イルーヴォ王妃の美しい姿を拝見したいと遥々やってきた次第。お目汚しをしてしまい誠に申し訳ございません」
テレッサはシュクレンの頭を乱雑に地面に押し込む。

「イラララララ!私の美しさは世界一…私より美しい者など存在しない…」
イルーヴォ王妃と呼ばれた女はリスティを見る。そして周りを見渡し唇を歪ませる。

「イラララララ!あぁ、醜い醜い!この下民共!イラララララ!」

するとその中に綺麗に着飾った女がいた。
どうやらこの国に最近やってきた者らしい。イルーヴォ王妃は馬車から降りる。
意外な程に背が高く、亜麻色の髪が腰の辺りまで靡いていた。
「お前はどこからやってきたんだぁい?」
上から下まで舐めるように見回す。
「ベルサーチェ地方よりやってまいりました」
女は跪きながら深々と頭を下げる。

「ほう、ならば教えてやらねばならない…ねぇ!!この国の規律を!!」
イルーヴォ王妃は突然鞭を取り出すと激しく女を叩いた。
乾いた音と悲鳴が街にこだまする。女の衣服は破れ顔はミミズ状に腫れ上がっていた。

「イラララララ!だいぶ良くなったじゃないか…下民らしい姿にね!」

「あ…ひ…ひぅぅぐぅぅ…」
女は痛みと恐怖で震えている。
「この者を城へ!」
イルーヴォ王妃が指示すると護衛兵が女を担ぎ上げた。

「ひぃっ!いや…いや!!」
女が泣き叫ぶ。一瞬シュクレンと目が合った。
「お願い!助けて!」
シュクレンが立ち上がろうとするとテレッサが手で制した。
「やめておきな!あんたが死ぬよ!」
その手は小さく震えていた。

「イラララララ!」
イルーヴォ王妃のかん高い笑い声が街全体に響いた。この国はイルーヴォ王妃によって支配されていたのだ。

「この街で女は美しくあってはならない。美しいのはイルーヴォ王妃だけという法律なのよ。それは子供であっても同じ…家の中に入りましょう」

テレッサは家の中に入る。

シュクレンはイルーヴォ王妃が去った後の街を見る。
やはり女は全てみすぼらしい姿をしていた。