嗚咽を漏らすカイトの顔に手が当てがわれた。見上げるとそこにはアリッサがいた。
首の切り傷も何もない。
「カイト、もう大丈夫よ。ゆっくり休みましょう。」
アリッサは優しい笑みを浮かべてシュクレンを見る。その笑顔に一瞬だけ息を呑む。
「…なぜ…笑うの?」
シュクレンはアリッサに問う。アリッサは一瞬だけ物憂げな顔をするとカイトの頭を撫でる。
「あなたが来た時、この世界は終わるのだと思ったわ。何度も繰り返されてきたこの世界でのカイトとの暮らしも終わる…。私は何度も殺されて…。それに気付いたのはあなたの姿を見た時。ずっと感じていた既視感の正体はこれだったの。」
アリッサはカイトを抱き締めると再び笑顔に戻った。
「せめて最後に笑顔で別れたいから…。」
アリッサの体からも光の粒が立ちのぼりその姿は小さく薄くなっていく。
「シュクレン…ありがとう…。」
カイトは手を差し出すとシュクレンはその手を握った。
「シュクレンと話せてよかったよ…そして気が付いて良かったんだ。お母さんは僕が何度も何度も殺していたんだ。僕がお父さんに殺されたら…僕は死んだ事を忘れてまた同じことが繰り返される。永遠にそれは終わらなかったんだ。シュクレンが僕達家族を救ってくれたんだね。君は一体…?」
「…私は…死神…本物の…死神」
「つまりそういうこった!俺様達はお前らみたいな迷える魂を回収して歩く死神なんだよ。お前らの魂は安全に運び次の魂へと転生させてやる。安心しろ!」
シュクレンの手からカイトの手が消えていく。
「僕らは…友達だよ!ずっと!」
「…トモダチ?」
そして二人の姿はもう見えなくなり、地面にガラス玉のような魂だけが二つ転がっていた。
二人が消えると壁に黒い亀裂が生じて建物が砂のように崩れていく。
「不浄セカイが崩壊する。歪みや汚れが全て闇に回帰する。」
徐々に崩壊が進みカラスのクロウの姿も闇に同化していく。
家に灯っていた光が一瞬だけ見える。そこにまだカイトとアリッサがいそうな気がした。
「…カゾク。…トモダチ。」
シュクレンが微かな声で呟く。
「ああん?しかし人間ってのは業が深い生き物だぜ!憎しみ合うわけでもなく殺し合うんだからな。それが最愛の家族だとしてもだ。友達同士でもな。」
不浄セカイが崩壊すると静寂な闇に包まれた。シュクレンの手にはまだカイトの手の温もりが残されていた。
「…カゾク…トモダチ…あたたかい…」
その手を自分の頬に押しあてる。
「ほう、お前にもそれがわかるのか?意外だな!朴念仁のお前にもそんな感情が残されていたなんてな!ははは!」
クロウの言葉を聞かずしてか手をクロウの体に乗せる。
「…クロウ…私の…カゾク?…トモダチ?」
「バ、バカ野郎!俺様がお前の家族や友達なわけないだろ!!俺様はお前の主様でお前は俺様の従者だ!わかってるだろ!!」
クロウは声高に抗議する。
「うん…わかった…」
そう言うとクロウの体を引き寄せる。
二人の家族を見て、温もりを感じた。シュクレンはそれがたまらなく愛しいような、そんな気がした。
「ま…ある意味、家族みたいなもんだよな。このセカイじゃ。」
クロウは少し照れくさそうに言った。
このデスドアには迷える魂がまだまだ存在する。
おわり