2.魔女狩り

シュクレンは空に飛び交う無数のカラスを窓から見ていた。

「…あんなにたくさん?」

「カラスは死の匂いに敏感だからねぇ…この国は死に支配されてるのさ。全てが狂ってるのさ。昔はとても良い国だったのに…」
ドールがしゃがれた声で喋った。

「死に…支配…」
灰色の空がどこまでも続き、飛び交うカラスの群れがまるで巨大な生物のように蠢いて街を飲み込もうとしているようだった。

城では1人の男が城下町を見下ろしていた。豊かな髭を蓄え、眉間には深いシワが縦に刻まれている。

「幻想の上に作られた虚城か…くふふ…」

「ケイズ様!ダン国王がお呼びです!」
召使いが部屋の入り口に立っていた。ケイズと呼ばれた男は髭を指でなぞりながら振り向き召使いを見る。

「わかった、すぐに行く」

ケイズが通路を歩いていると女剣士が金色の髪を靡かせ前から歩いてくる。鋭い眼光に腰に携えた大きな剣が揺れていた。

「おやおや、これはセルビア殿…」
「どけ、邪魔だ!」
セルビアは不機嫌そうにケイズに鋭い視線を向ける。

「魔女の捕獲は順調かね?」
「そなたが心配する必要はないだろう。怪しき女は全て捕らえている。ネズミ一匹逃げることはできん」
ケイズが横に移動して進路を譲ると歩みを進める。
「その中に本物の魔女は…いたのかね?」
歩みを止めるとケイズの方に振り向いた。
「何が言いたい?」
「妖の蒼月(あやかしのあおつき)…この街にまだ潜んでいるはずだ」
ケイズは薄ら笑いを浮かべセルビアの体を舐めるように見る。セルビアはその視線に嫌悪感を抱きながらも顔を背けた。

「妖の…ふん、ただの伝説に過ぎない魔女をどう捕らえろというのだ。とっくに処刑され灰となった者を捕まえろと?魔女と言っても所詮は怪しい薬を作ったり占いをする程度だ。中にはその程度の魔法すら扱えない女もいる。ダン国王は何を恐れているのかわからないがな」
「くふふ…ダン国王は恐れているのではない。力を欲しているのだよ。伝説の魔女の力をね。ダン国王はこの世界を変えようとしているのだよ」

「この世界を…?」
「そう、世界を征服しそして我々は再び…くふふ。少し話し過ぎた。せいぜい紛いものを掴まされないように注意しなさい」
ケイズは笑いながら通路の奥に消えた。セルビアはその後ろ姿を見送る。

「かつてのダン国王は世界征服など考えもしなかったはず…一体何が…?」
ケイズは1人の男の前にひれ伏す。その男は筋骨隆々の逞しい体を鏡に映し眺めていた。そして杯を持った若い男の召使いが両脇に立っている。

「この杯に魔女の血を満たし飲めば不老不死の力を得る事が出来るらしい。この若く美しい体を永遠に維持できるというわけだ。伝説の魔女はまだ捕まえられないのか?」
鋭い眼光をケイズに向ける。この国を率いるダン国王だ。

「はっ!しかし、残念ながら伝説の魔女『妖の蒼月』はまだ見つかっておりません…セルビアを始めとする騎士団が捜索しておりますがいまだに足跡すら見つかっておりません…」

「なぁに、この国の包囲網からは逃れられない。見つかるのも時間の問題だ。何より力がある者がおとなしくしているはずもなかろう」
ダン国王は召使いから杯を受け取ると酒を飲み干した。その酒は血のように赤くダン国王の口元から一筋流れて床に雫が落ちた。

「足らぬのだ。酒では我が命を満たすことは出来ぬ。ケイズ、どうやらネズミが数匹入り込んでいるようだ…」

「はっ!発見次第駆除致します!それでは失礼致します!」
ケイズは王の間を去る。そして不敵な笑みを浮かべた。

「妖の蒼月とダン国王か…衝突すれば双方無事では済まないだろう。そうなれば…くひひひ」