1.魔女狩り

「魔女だ!」
慌ただしく街の中を数人の男達が駆ける。家屋の中に男達が押し入り一人の女を抱え出てくる。
「いや!私は魔女じゃない!!」
女は泣き叫び抵抗するが男達は聞く耳を持たず悲鳴は虚しく街へ反響するだけであった。街の人々はそれを見ても見ぬふりをするだけだった。

この国では魔女狩りが連日行われ、魔女裁判にかけられた多くの女達が処刑されていた。
空には血の匂いに誘われ無数のカラスが飛び交い殺伐とした空気に民衆は活気を失い怯えていた。

「今日も誰かが捕まったみたいね…」
女が少女に呟いた。

「…うん」
少女は頷き震えていた。女が少女の表情を伺うと恐怖で怯えているようだった。
少女の姿は後ろに束ねた長い銀髪、透き通るような肌に蒼い瞳を有していた。
「あなたの容姿なら魔女にされちゃうわね?」
女は突然迷い込んできた少女をかくまっていたのだ。
「あなた名前は?」
「…シュクレン」
「変わった名前ね?私は…クリスって呼んで」
クリスは艶やかな長い黒髪を腰まで伸ばして首元で束ねていた。歳はシュクレンよりも上なのかとても落ち着いており、凛とした黒い瞳は宝石のように輝いていた。

「…うん」
「私はこの街で古の魔法を使って薬を処方してるの。どんな病気も治す薬を調合してるのよ。でもね、病んだ人の心までは癒せない…」
クリスはカーテンの隙間から外の様子を伺う。男達は刀剣を所持し物々しい雰囲気に包まれ、空を覆い尽くさんばかりのカラスの群れがより一層街を暗くしていた。
「…どうして魔女は処刑されるの?」
シュクレンの問いにクリスは下唇を噛んだ。
「国王は魔女を畏れているのよ」
「…国王が…?」
窓の外から見える大きな城を見る。
無数のカラスが至る所に留まり、それは異様な雰囲気と威圧感を放っていた。

「私のお母様もあそこに捕まっているの。魔女裁判で魔女にされれば処刑される」
クリスは静かな口調で語ったが強くはっきりとした発音だった。
「とにかくあなたも魔女と疑われる前にこの国を出る事ね。わかった?」
「…うん」
シュクレンは頷いた。

「クリス、いるかい?」
不意にドアの外で声がした。

「ドールさん!今開けるわ」
クリスがドアを少し開けてドールと呼ばれた老婆を招き入れた。酷く猫背で杖をついて歩いてくる。
クリスが引き出した椅子にゆっくりと座る。

「もうこの街には魔女がいなくなってしまう…そうしたらあたしのリューマチの薬は誰が調合してくれるんだい…」
ドールはシュクレンをチラリと見る。眉を寄せて鼻にかけた眼鏡を指で押し上げた。

「おやおや、もう一人魔女がいるのかい?随分お若いようだねぇ」
クリスが奥から器を運んでくる。
「彼女は魔女ではないわ。たまたまこの国に来てしまった異国の方なの」
器の上で指をクルリと回すと煙が上がり淡い光を放つ液体になった。

「あ…」
思わずシュクレンが身を乗り出してそれを凝視した。
「あたしにはこの薬しか効かないのよ。あなたのお母さんの代からずっとお世話になっていたのよ。医者は手に負えなくて高くて効かない薬を出すだけ」
ドールは器を両手で抱え飲み始める。

「私達魔女は静かに暮らしたいだけなのに…ダン国王は私達の力に畏れを抱いてしまっている。力を持った魔女に国が支配されてしまうと恐怖を抱いてまったの。あの事件さえなければ…」
「…あの事件?」
「ええ、伝説とまで謳われた魔女が反旗を翻し国を相手に単独で襲撃をしたの」
「…単独…独りで?」
クリスは頷き話を続ける。
「魔女の力は強大で多くの兵や民が犠牲になったわ。しかし魔女は捕まり見せしめとして火あぶりの刑に処されたの。でも魔女は死に際にこの世に呪いを放った。その呪いは長くこの世に留まり疫病をもたらした…復讐を恐れた国王は魔女の仲間を駆逐するために魔女狩りを始めたのよ。私もいつかは捕まって火あぶりの刑に処されるのかもしれないわ」
クリスは小さくため息を吐くと窓の外を見る。

「その昔この国は小さな魔女の村だったの。質素に暮らしていたそうよ。隣国が領土拡大のために攻め入った時は敢然と戦った。その時に現国王の父である戦士が魔女と共に戦い村を守った。現国王の父は魔女と契りを交わし共に発展する誓いを立てたの。近親交配が進んでいた魔女の村にとっては救世主でもあったわ」
「…キンシンコウハイ?」
シュクレンの問いにクリスは頷く。
「小さな村では起こりうることよ。でも国の発展と共に魔女の血も薄まり古代の魔法を使える魔女もいなくなったの。今では薬を調合するくらいしか出来ないわ。それが一人の天才的な魔女によって災いがもたらされた。強い力は多くの民に恐怖を与えた…」