16.羆

「うぅ…」
家屋の崩落に巻き込まれ怪我をしている者が二人いた。
「武三…早く助けねぇと」
「いや、酷なようだが動ける者は俺についてこい!この状況じゃ助けている内に俺達の体力まで奪われちまう。それに助けた所で助かるような傷じゃねぇ…」
家の柱に足が挟まり折れている者、折れた木片が脇腹に刺さっている者ががいた。無傷で残ったのは三人の男達。二人は羆の一撃でほぼ即死していた。
「お、おい…俺達を置いていく気か!?」
足が挟まってる男が苦悶の表情を浮かべる。
「すまねぇな。このままじゃ全滅だ…」
「この足じゃ歩くことも出来ねぇ…死にたくなかったな……」
「仇は取る!絶対にな!」
武三の言葉に男は頷いた。そして、手を差し出す。
「武三…すまなかったな。俺はお前の事を酒浸りのろくでなしだと思っていた」
「ふん、羆の奴がいなきゃ酒浸りのろくでなしだ。気にするな」
武三は男の手を握ると力強く頷いた。その目には決意が強く現れていた。
脇腹に木片が刺さっている男は武三に敬礼をすると武三は頭を下げて返した。
「よし!行くぞ!!」
武三、シュクレン、三人の男達は山を登り始める。
冷たい風と降り積もった雪が体力を奪う。山まで続く血の跡を追いかけて登っていくと吹雪はさらに強まり周りが真っ白になる。
「絶対にはぐれるなよ!!」
シュクレンが後ろを振り向くと男が一人が足りない。
「…武三…一人いない…」
「なんだと?ちっ…構わず行くぞ!!」
武三は黙々と前に進む。
その内討伐隊と見られる男の死体が数体あった。
「討伐隊が…!?ちくしょう…銃を持っていたのに…」
「食われてないな…そういえば四月頃に女の子が行方不明になった事があったな?」
武三の言葉に男は少し考えた。
「ああ、影山の所のミヨだ。山に遊びに行ったきり帰って来なかったんだ。村の人間総出で探したが見つからなかったな。それがどうした?」
「おそらくはミヨは羆の奴に食われたんだ。それで人間の味を覚えた。それも女のな」
「それがどうした?」
「羆の奴は女を女を、男を食ったら男ばかりを狙う。槻山家を襲ったのは女がそこにいるからだ。失敗した…あの時俺達が一緒にいたら良かったんだ!!」
武三は歯軋りをして悔しがった。
「だからか…俺達を襲った時誰も食わなかったのは…んじゃ、俺達は食われなくて済むんじゃないか!?」
男の言葉に武三は首を振った。
「奴からすれば俺達は敵だ。執拗にどこまでも追って俺達を殺しにかかってくるだろう。さっきの襲撃で俺達を脅したが、まさか追ってくるとは思わないはずだ。奴の体力が回復するまで待っていたら俺達の体力が先に尽きてしまう。それにたんまり餌を食って満腹なはず。活動は鈍る。殺るなら今しかねぇ!!」
武三は再び前に進むと身を潜めるように合図をする。
ちょうど小高い山があり、その脇に窪みがあった。そこに羆はいた。
大岩のように体を丸めている。
「まだ俺達に気付いてないぞ…ここから撃てば…」
男は指を差すが武三は首を振ってダメだと言った。
「頭がここから見えねぇ…弾はあと5発しかない。この距離から体に撃ち込んだ所で致命傷は与えられない…どうにかして正面を向いてもらわないとな」
武三の言葉に男達は不安げな表情をしてお互いの顔を見つめていた。