11.羆

デューンの体が羆の口から放り出された。
シュクレンはすぐに駆け寄るがその姿に唖然とした。右肩から脇腹にかけて噛みちぎられており内臓がはみ出て
いた。
「…デューン…」
「シュクレン…早く…ここから逃げるんだよ…ブラック様…申し訳ございません…油断しました…」
「デューン…その程度の傷ならまだ戦えるだろう?我の名を叫ぶのだ!戦え!!」
ブラックの言葉にシュクレンは驚いた。デューンはどう見ても戦えない。立ち上がることはおろか既に右の肺を損失して空気が漏れていた。
「…デューン…ダメ…手当てしないと…」
ブラックはシュクレンの言葉を聞かずにデューンに檄を飛ばす。
「さぁ!叫べ!戦うのだ!ルシファー様のために戦うのだ!!」
デューンは一瞬だけシュクレンに視線を送る。その目は痙攣しその姿を捉えていたかは定かではない。
そして、残された左手をかざす。

「ブラック!!」
ブラックが左手に留まると大鎌へと変化し、デューンの髪の色が金髪から青へと変化し一本の毛束が立ち上がった。
「ふぬあぁぁぁ!!」
デューンは震えながら立ち上がる。
「…デューン!?」
傷口から内臓がこぼれ落ちる。
「あ…ぐ…ハァ!ハァ!」
デューンの髪色が青から金髪へと点滅を繰り返していた。
「ブラック様に…全てを捧げます…」
羆は突進してくる。デューンはシュクレンを突き飛ばした。
「ハァァァ!!」
羆の攻撃とデューンの大鎌が交差する。羆の右耳が切断され出血する。
「ぐ…外した…か」
デューンの髪が金髪に戻りうつ伏せに倒れた。ブラックは大鎌の変化を解きカラスの姿に戻る。
「ちっ!この程度で倒れるとは軟弱者め!!」
「…ブラック…様…」
その声は弱々しく震えていた。あの恐ろしく強かった面影は微塵に残ってはいなかった。
「ふん!この約立たずが!もう貴様は用済みだ!」
吐き捨てるように言い放つとシュクレンを見る。
「さすがの我も従者がこれでは任務を遂行出来ない。これで失礼させてもらうぞ!!」
ブラックはデューンを残して空の闇に融けていった。
シュクレンはデューンを仰向けにするとその傷口を手で抑える。しかし、出血は止まらずにデューンの呼吸が弱くなっていった。
「シュクレン…僕はもう助からない…あなたはここからお逃げ…力になれなくて…ごめん…」
「ううん…デューン、助かるから、一緒に逃げよう?」
シュクレンはただ何も出来ずに手を添えているしかなかった。
羆は息を荒くして徐々に近付いてくる。
「はぁ…はぁ…僕は何のために働いていたのだろう?」
デューンの目は虚ろげに空を見る。

それが最後の言葉になった。

デューンの体から光の粒が上がると小さくなりガラス玉のような魂だけが残った。シュクレンは慌ててそれを回収して袋に詰める。
「…デューン…」
羆がシュクレンの姿を捉え襲いかかろうと突進してくるが、突然何かに気が付いた様子で鼻を風に向ける。そして、身を返し山の方へ走っていった。

「おい!槻山家が!!」
そこには村の男達がいた。