16.紅い死の微笑み

「もう完全に消えたわ…。これでこのセカイも終わりね」
キリコは倒れているリュックの所に行く。
「キリコ…君、強かったんだね…ゴホッ…そして、思い出したよ…僕も…死んでいたんだね…」
リュックの目から涙がこぼれ落ちる。
「そうよ。残念だけど…何度も何度も繰り返し殺されていたのよ。でも大丈夫。もうあなたを拘束していた魂は滅ぼしたわ。きっと解放されて生まれ変わる事が出来るわ!」
「キリコ…君は…?」
「あたいは死神よ。この澱み歪んだ斑なセカイを清浄化するのが仕事なの!」
「そうか…んじゃあ、僕は安心して休めるね…」
リュックの目が静かに閉じられていく。すると体から光の粒が舞い上がりリュックの姿が薄れていく。
それはガラス玉のようになり、地面に転がった。
キリコはそれを拾い袋へと詰めた。
「キリコ、これで仕事は終わりじゃないわよ!」
ノスタルジアはキリコの右肩に留まるとクチバシで岩場を差す。

「そこに隠れているのはわかっているわよ!さっさと出てきなさい!」
キリコが叫ぶと岩場の影からトンとカンが姿を現した。
「あ、あんたが俺達を救ってくれたのか!ありがとう!!」
トンが両手を広げてキリコに近付く。
キリコはふとトンの頭の上から細い糸が出てる事に気が付いた。それはカンの頭にも付いていた。
「ノスタルジア、あれは何?蜘蛛の糸みたいだわ」
「あれは死蜘蛛の糸よ!」
「死蜘蛛?よくデスドアに徘徊しているデカイ蜘蛛の事?」
「そうよ。死蜘蛛は現世に死の糸を張り、それに引っかかった者の魂をデスドアに引き込むのよ。あれはまだ現世と繋がってる魂ね!」
「ということは、あの2人はこの落盤事故からの生存者という事ね?」
キリコの問いにノスタルジアは頷く。
「あんた達に訊くわ!どうしてグレッグのウサギを殺したの!?あたいに嘘ついてたわけよね?」
キリコの剣幕にトンが後ずさる。
「あ、あいつは俺達の子分なんだよ!新たな鉱脈が見つかり落盤事故に見せかけ採掘を中止させて密かに横取りしようと計画してたんだ!それなのにあいつは怖気付いて断りやがったんだよ!」
「その腹いせにウサギを殺したんだ…!まさか…たかがウサギなんかにあんなに怒ると思わなかったんだ…」
トンとカンの話にキリコは呆れてしまった。
「たかがウサギね…あんた達にはそんな程度なんでしょうね?例えウサギでも虫でもなんでも 大切に育ててれば家族同然なのよ!!ノスタルジア!!」
キリコの右手に留まると大鎌へと姿を変える。
「ひぃぃ!」
「グレッグの仇はきちんとあたいが取ってやるわ!!」
キリコが大鎌を振るうと2人の頭の上の糸が切れた。
「えっ?」
トンとカンが頭を撫でている。
「あんた達は今死んだわよ!現世で眠ってる間に来たのかもしれないけど、もう2度と目を覚ますことは無い。今のあんた達がいるこのセカイがリアルなのよ!!」
「うぐ…俺達を舐めるな!!お前をここで殺してやる!!」
トンとカンはツルハシとスコップを構えた。
だが、キリコは瞬時に大鎌を振り2人の首を一気に刈り取った。