14.紅い死の微笑み

リュックの手からは皮膚を突き破り骨が露出していた。激しく出血している。

「ゲハーッ!」
グレッグのハンマーが横のスイングでリュックに迫る。咄嗟に両腕で防御するが体ごと叩き飛ばされて岩に叩きつけられた。

「ガハッ!」
全身が痺れている。
そして両腕は動く事はなくダラリと落ちた。骨が砕けていた。

「あ…ああ…」
グレッグが近付いてくる。
「リュック、お前、イイヤツ、でも殺さないとダメ」
「ぐああぉぉぉぉ!頼む…もうやめてくれ…死にたくない…お前が殺したとか言わないから!」
「ゴメン、信じられない」
グレッグがハンマーを頭上高く振り上げた。

リュックは諦めたように目を瞑る。その時、岩の隙間から光が溢れ吹き飛んだ。

「なぁっ!?」
眩しさに目をこらすとそこにキリコが立っていた。

「どういう状況なのかわからないけど、リュックは殺させないわ!」

「お前、キリコ…なんで、ここに、来た??」
「どうしてもなにもこれがあたいの仕事よ!」
ノスタルジアは銃の変化を解き、キリコの右肩に留まる。無惨に倒れている炭鉱夫達の遺体を見る。
「だいぶ殺したわね。何となく状況は把握したわよ。あなたの魂を滅する事、それが私達の任務よ!」
「キリコ…逃げろ…グレッグは…狂ってる…」
リュックは意識が朦朧とする中必死にキリコに訴える。
「キリコ…お前、殺したくない、でも見てしまったから、殺す!」
グレッグは鼻息を荒くしてハンマーを構えた。キリコは握り拳を作り構える。
「キリコ!早く私の名前を叫びなさい!」
ノスタルジアが肩から飛び立ち準備するがキリコは首を横に振った。
「まだいいわ。少し痛い目に遭わせてやらないとあたいの気が済まないのよ!思い出させてあげるんだ!」
キリコは軽いステップを踏むと腰を落とした。
「ふーん、でも無理しちゃダメよ!これだけの体格差があるんだから一撃でも喰らったらただでは済まないわよ?」
「大丈夫よ。あたいのゲンコツは超痛いんだからあいつも無事では済まないわ!!」
グレッグがハンマーを振り上げ、キリコに襲いかかる。ハンマーをキリコの頭目掛けて振り下ろすがそれを躱してカウンターの右ストレートをグレッグの顔面にぶち込んだ。
拳がグレッグの鼻を砕き、更に押し出すように腰から拳へ力を集中させた。
鈍い音と共にグレッグの巨躯が捻じれ、血を撒き散らし激しく回転しながら地面へと叩き付けられた。
「ゲ…ハァ…」
グレッグの視界がグルグル回ると景色が飴細工のようにぐにゃりと曲がって見えた。
鼻腔から口に血が溢れ、吐き出した。

「な…俺、痛い、痛い!」
グレッグはフラつきながら立ち上がりハンマーを手にする。
「どう?あたいのゲンコツは超痛かったでしょ?思い出した!?」
「おも…い…だす?」

グレッグはウサギを殺された怒りからティンを殺害した。仲裁に入った親方とリュックをも殺害したが無事に救出された。しかし、その後に民衆の私刑に遭い命を落としたのだ。
何度も何度も繰り返す内に妄想は膨らみ改変されていった。

「俺、殺された、みんなに、殺された…」
グレッグは震えながら溢れる鼻血を拭っていた。