13.紅い死の微笑み

リュックは岩に激しく叩きつけられて全身傷だらけだった。両手の爪は剥がれ、腕の骨も折れている様子だった。

「うう…いってぇ…」
リュックが目を開けるとランプの光が岩肌を照らしており、そこにはぬらぬらと光る血液が飛び散っていた。酷く鉄臭い匂いが鼻につく。
そして奥には数人の男が横たわっていた。
「こ…これは…お、親方ーっ!」
リュックは親方の体を揺さぶるが反応はない。
「どう…いう事…なんだ…?」
するとまたロープが強く引っ張られ暗闇に引き込まれる。
「うあああっ!?何なんだ!?」
奥にグレッグがいてロープを手に持っていた。
鼻息が荒く様子がおかしい。
「グレッグ…これは何があったんだ!?」
「さっき、また落盤事故が起きて、みんな死んだ…」
グレッグは笑っている。頭を揺らして笑う姿は異様に見えた。
「ほ、本当か…?」
「リュック、お前も、俺、殺すのか?」
「どういうことだ!?説明しろよ!!」
「俺、もう戻れない、ここ出たら、殺される、みんなに殺される、だから俺お前も殺す!」
グレッグが狂気の叫びと共にハンマーを振り上げた。
「うわぁっ!!?」
リュックは立ち上がり逃げようとするがロープを引っ張られ逃げられない。
「うぅ!ぐぅ!」
必死に地面を掴もうとするが爪が無い指先は無情にもズルズルと滑るだけだった。
徐々に二人の距離が狭まる。

「俺、死にたくない、だから殺す!」
「い、嫌だ!死にたくない!グレッグ目を覚ませよ!お前そんな事する奴じゃないだろ!!」
リュックは必死に地面を掴む。
指先は肉が擦り切れて骨が露出し血が流れ始めた。
グレッグは徐々に近付く。

「うあああぁぁぁ!グレッグやめてくれ!!」
「みんな、落盤事故で、死んだことにする」

「ちっくしょう!!」
リュックが開き直ってグレッグに飛びかかる。
力一杯に握り締めた拳がグレッグの顔面に直撃する。一瞬、グレッグの顔が歪みぐらついた。
立て続けにパンチを見舞った。既に指の骨は砕けていた。
「どうして!どうしてこんな事やっちまったんだよ!!」
リュックは涙ながらにグレッグの顔面を殴打し続けた。
「ウサギ、殺された、だから仕返ししようとした、それだけ」
リュックの手が止まり、2人の間に静寂が訪れた。暫く沈黙が続いた後、リュックが先に口を開いた。
「だからって殺していいのかッ!?ウサギと人間の命は」
「俺の、家族、ウサギは、俺の家族、家族殺されたから、俺も殺す」
グレッグはそう言うと肩を震わせた。目から涙が流れ、顔の汚れによって泥水となって顎先から滴り落ちていた。
「家族……でも人を殺していい理由にはならない…ウサギだってそれを望んでるわけじゃないだろ?」
「俺、暴力嫌い、でも、暴力で殺されたから、暴力で返す」
「それが間違ってんだよ!!もうやめろよ…!もう十分だろう?俺がきちんとお前の事を説明して」
「無理、俺、もう死刑、だからお前をここで殺せば、落盤事故で死んだことに、できる!」
グレッグはハンマーを振り上げた。