9.夏の思い出

シュクレンは転がっている亮太の魂を取り袋へと詰める。それはまだ温かくほのかに光を放っていた。

「…このまま…ここで暮らさせてた方が…良かった?」
シュクレンの蒼い瞳がクロウを見つめる。

「おい!俺達の仕事は不浄の魂を回収する事だ!仕事に間違いも正しいも善も悪もねぇ!与えられた自分の仕事を全うするしかねぇんだ!そうじゃないとこのセカイじゃ俺達の存在意義が無くなっちまう!」
クロウはまくし立てるがシュクレンは納得できないのか首を横に振り目を伏せた。

「…でも…」

「デモもストもねぇ!不浄に感化されやがって!いちいち不浄の頼み事聞いてたら俺達死神の仕事なんかあがったりだ!不浄の魂が溢れてみろ!このデスドアなんかあっという間に不浄セカイだらけで一杯にならぁ!俺達の仕事は魂を狩り浄化させて現世に送り返してやる事なんだ!でなきゃ生と死のバランスが崩れちまう!死んでも生前と同じように永遠に好き勝手に我欲に満たされてみろ。生きる事の意味が無くなる!俺達は死神だ。死を忘れた連中に死を思い出させるのが仕事なんだ。酷なようだがそれが俺達の仕事だ!」

「…わかった」
シュクレンは頷くと袋の口を締めてクロウに渡した。

周りの景色が砂のように崩れ始める。
青い空も蝉の声も闇の中に消えていった。もの哀しいヒグラシの声だけがいつまでも耳の中に残っているような気がした。

「夏が終わった…私…知っていたかもしれない…あの景色…あの蝉の声…あの気持ち…おばあちゃんの…カルピス…おいしかった…」
シュクレンは肩を抱き寒そうに身を震わせた。

「ん?なんだそれ?カルピス?」

「…ううん、なんでもない。」
シュクレンは首を左右に振ると下唇を噛む。

「お前…珍しくお喋りな!もしかして記憶が…?」
「…キオク?」
クロウの言葉にシュクレンはきょとんとした表情を見せる。その顔を見たクロウは安心したようにため息をついた。
「いや、なんでもない。俺様の勘違いかもな」

デスドアにはまだまだ迷える魂が存在する。

終わり