8.夏の思い出

「許さないっ!!うがぁぁぁぁっ!!」
2人はもつれるように地面に倒れると弾かれるように離れた。
体勢を整え大きく振りかぶり地面を蹴って加速し大鎌を水平に振る。亮太はそれを寸前で体を捻り躱す。
「シュクレン!スピードは奴が上だ!追いつかないぞ!」
クロウが叫ぶ。

すぐに踏み込み体ごと回転させ大鎌を振り上げるが亮太はそれよりも更に速く跳躍し回避した。
「おれは絶対に消えないっ!!」
亮太の腕がクロスされ風が集まると一気に両手から突風が放たれる。
大鎌で受け止めるが体ごと吹き飛ばされた。
「…くっ!?」
「奴はもっと加速するぞ!シュクレン!後ろへ飛べぇ!!」
クロウの指示通り後方へ跳躍する。亮太がそれを追う。
「逃がさないぞ!!」
一瞬、シュクレンの姿が視界から消えた。
「え?」
次の瞬間、亮太の上半身が切断され地面に落ちた。

「がは…な…んで?」
震える亮太の視界には本堂に掲げられた大きな鎌が見えた。
「か、風切り鎌…そ、そんな…」

「あ…ああ…」
震える亮太にシュクレンは静かに歩み寄る。

「…亮太…おばあさん…最期笑ってた…きっと…幸せだった」
一瞬、亮太は目を見開き口元を震わせた。

「思い出した…全部思い出したよ…」
亮太の顔がみるみる老化していく。皺が刻まれ髪の毛には白髪が混じっていく。

「…亮…太!?」
亮太は中年の姿になり首に赤い線がみるみる刻まれていく。

「俺は…結婚して子供もできて幸せな人生を送るはずだった…なのに会社のために働き続ける毎日…会社のために身を粉にして働いたのにリストラされて家族からも見放されて…一人になって…」
首の線がどんどん開いていき血が溢れ出した。

「人生で一番幸せだったのは、ばあちゃんと過ごした子供の頃だった…!シュクレン…俺は殺されてたんだ。雨の日に…たまたま前から歩いてきた赤いヒールを履いた女に…剃刀で首を斬られた…それは…自殺もできない俺にとって…救い…ゴホッ…ガゥ…ウグ…」

「亮太!」
シュクレンがしゃがみ亮太の体を抱き起こす。すると亮太の姿が再び子供の姿に戻る。
「シュクレン…ありがとう。シュクレンが来てくれなかったらきっとおれがばあちゃんを殺していたかもしれない。少しずつだけど、同じことを繰り返しているようで変わっていってた。終わらない夏休みではなく、終われない夏休みの中で苦しまなければならなかったんだね。ばあちゃんも…おれも…」
クロウが大鎌の変化を解きシュクレンの右肩へ留まる。
「少年、夏休みはもう終わりだ。あとはきちんと浄化して新しい魂にしてやる。その記憶は失われるがな」

クロウの言葉に亮太は頷くとゆっくりと目を閉じた。そして、そのまま小さくなりガラス玉のような魂になった。

「また赤いヒールの女か…何なんだ?現世じゃ何が起きてるんだ?…ったく仕事増やしやがって…。こう次から次に不浄を送ってよこされたんじゃたまったもんじゃないぜ!」
クロウは憤慨しため息をついた。