3.死神の棲む街

深夜。

シュクレンが微かな物音に目を開けると窓の外に黒いカラスが居て室内を覗き込んでいた。
「…クロウ」
ベッドから起きて駆け寄り窓を開ける。

「シュクレン、どうやら死神気取りの殺人鬼がいるみてぇじゃねぇか?この陰気臭い”セカイ”も奴のものかは知らねぇがな!見ろよ、やけに不自然な作りしてやがるぜ!」
クロウがクチバシで指す方を見ると歓楽街から突然この家がある区画が繋がっていた。まるでその間にあるものが省かれたように。
「ここは奴に都合良く出来てるみたいだぜ。恐らくはここに導かれたのも奴の仕業。つまり、今夜が勝負ってわけだ」
「…そう」
抑揚のない返事をする。
「今夜の獲物は活きが良さそうだぜ。お前も気を付けろよな。トロいからよ!俺様は近くにいる。お前と俺様が一緒にいたら怪しまれるからな!」
クロウは翼を広げると飛び上がり夜の闇に溶け込んでいった。

「今夜…来る…」

その頃、カイトはプラモデルを作っていた。机の上は雑多に散らかっており、箱がいくつも積み重なっていた。

「…カイト」
扉の向こうでシュクレンのか細い声がする。
「シュクレン?どうぞ!」
シュクレンが扉を開けるとカイトは照れくさそうに頭を掻いた。

「この部屋に女の子が入るの初めてだよ!」
「…そう」
「うん、ちょっとドキドキするなぁ」
カイトは横目でシュクレンを見る。
長く艶やかな銀髪に包まれた顔は白い肌に端正な顔立ちをしており、蒼い瞳は特に印象的だった。

「…そう…それ何?」
シュクレンはプラモデルを指差す。

「ああ、これはお父さんから買ってもらったプラモデルだよ。戦艦大和っていうんだ。お父さんはこういうの好きなんだ」

「…お父さん?」

「うん、お父さんは海で働いてる。漁師なんだ!だから滅多に家に帰って来れないんだ。シュクレンのお父さんは何してるの?」

「お父さん……思い出せない…」
シュクレンは俯き頭を抱える。

「大丈夫?…もしかして聞いていけなかったかな?」
カイトは少し驚いた様子でシュクレンの顔を覗き見る。
「ううん…いいの…」
父の記憶は無かった。忘れているというよりも最初から無かったように思える。
ふと思い出すような感覚もなく、ただ父の事を聞かれて考えてみただけだった。

「シュクレンはどんな旅をしてきたの?僕に聞かせてよ!」
カイトは興味深そうに身を乗り出し目を輝かせる。

「…話せる事…何もない…」
「ええ!?そんなもったいぶらずに教えてよ!」
シュクレンはプラモデルを指差す。

「…それ、完成したら話す」
「約束だよ!」
カイトはそう言うと次々にパーツを組み合わせていく。その手付きは慣れておりシュクレンは思わず見入った。

「…魔法」
「うん?シュクレンは女の子だからこういうのは作ったこと無いんだね。僕はたくさん作ったよ。いつか戦艦に乗るのが夢なんだ。そして悪い奴らをぶっ飛ばす!」
カイトはパンチの素振りを見せる。それを見てシュクレンは顔をしかめた。

「…暴力…キライ」
「でも暴力をしてくる奴は暴力で仕返ししないとダメなんだよ!話し合いで通じない相手もいるしね。大人達だって喧嘩して戦争とこしてるだろ?」
シュクレンはカイトの言葉を遮るように耳を塞いだ。
「…私、わからない。戦うの好きじゃない」
「シュクレンは女の子だもんね。僕だって本当は怖いよ。でもお母さんを守るためだったら戦うのが男なんだよ」
カイトは小さな貝殻をシュクレンに渡した。
「…これは?」
「お守りさ!死神に襲われないためにの!」
その貝殻は不思議な色をしていた。