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20.羆

羆の体からも光の粒が上がると小さくなりガラス玉のような魂が残った。するとクロウの大鎌がそこに落ちていた。すっかり小さくなり草刈り鎌のようになっている。「クロウ!」シュクレンは慌てて鎌を拾うと鎌の変化が解けてカラスの姿になる。「クロウ!」再び…

19.羆

「おい!大丈夫か!?生きてるか!?」武三は軽くシュクレンの頬を叩く。「あ…武三…?」シュクレンが声を発すると武三は安心したようにため息をついた。「ふぅ、無事だったか」「あ…雪崩…」周囲を見渡すと雪原がどこまでも続いていた。「村落まで流れ落ち…

18.羆

「このくたばり損ないがァっ!!」武三は銃に弾を込めて素早く構えた。しかし、その手は震えている。「くそ!こんな時にアル中とはな!!ちくしょう!!」羆は食いかけの男の体を無造作に放り投げ、凄まじい勢いで迫ってくる。「ちくしょう!!」その時、シュ…

17.羆

「…私が…囮になる…」シュクレンの申し出に男達二人は安堵の表情を浮かべる。「大丈夫か?」武三は目を細めシュクレンを睨むように見ると大きく息を吸った。シュクレンが頷くと武三は銃に弾を込める。「もし俺が狙撃を失敗した場合、お前の命は無い…」武三…

16.羆

「うぅ…」家屋の崩落に巻き込まれ怪我をしている者が二人いた。「武三…早く助けねぇと」「いや、酷なようだが動ける者は俺についてこい!この状況じゃ助けている内に俺達の体力まで奪われちまう。それに助けた所で助かるような傷じゃねぇ…」家の柱に足が挟…

15.羆

男達はいつの間にか寝息を立てていた。武三は座って銃を体に立てかけたまま目を瞑っている。シュクレンは立ち上がり窓から外を見る。まだ真っ暗で何も見えない。「…クロウ…」その名を小さく呟くが雪が真横に飛んでいくだけだった。無力感を感じていた。クロ…

14.羆

「ところで…貞吉の奴随分遅いんじゃねぇか?」先程漬物を取りに行った男が帰ってこないのだ。「吹雪で見えなくなって迷ってるんじゃねぇだろうな?」「まさか!通りの向こうだぞ?」「この吹雪じゃ歩き慣れてても適わねぇや。俺が見てこよう!」立ち上がった…

13.羆

男達は憔悴しきっていた。惨状をそのままに家屋の中で暖をとっていた。「お前達は風上にいた。だから匂いに気づいて逃げたんだ。羆は鼻が効くからな。でも奴が逃げてよかったかもしれん。もし遭遇してたらお前達は全滅していた。あいつは人の肉の味を覚えちま…

12.羆

「うわぁぁぁぁぁ!!おっかぁ!!」「タエ!タエ!居たら返事してくれ!!」男達は倒壊した家屋の中に入りそれぞれの家族の名前を叫びながら半狂乱になって瓦礫を除けていた。後から追いついた武三が周囲を見回しシュクレンの姿を見つけると近付いてくる。「…

11.羆

デューンの体が羆の口から放り出された。シュクレンはすぐに駆け寄るがその姿に唖然とした。右肩から脇腹にかけて噛みちぎられており内臓がはみ出ていた。「…デューン…」「シュクレン…早く…ここから逃げるんだよ…ブラック様…申し訳ございません…油断し…

10.羆

「だが救済措置はある」ブラックがシュクレンを見つめる。「新たな主を見つける事だ。だが、それも運次第といった所だがな。お前はこの不浄セカイの終わりと共に魂に戻ってしまう。それを一旦我々が回収し、浄化の手続きを取る。その時に新しい主がお前を選べ…

9.羆

「…クロウが…食べられた…!」シュクレンは雪の中に再び身を隠す。クロウを失った今、羆に対抗する術はなかった。今まで抑えていた恐怖感が一気に押し寄せる。その身を震わせ耳を塞ぎ目を瞑った。その時、体がフワッと浮き回転しながら飛ばされる。羆が雪ご…