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人間ドッグで天に召されそうになった話

私はその日は人間ドッグだった。
普段からジャンクフードばかり食べている私にとってはまさに恐怖そのもの。

再検査となればまたもや余計な費用がかかるというもの。

元旦から毎日10km走りまくっていた。まさに焼き付け刃もいい所で突然体が変化するわけでもない。

それでもやらないよりはマシだろうとひたすら走っていたのだ。

そして満を持して迎えた人間ドッグ。

ドラゴンボールで言えば100倍重力で修行した孫悟空のような気持ちだった。
運命の体重計に上がる。

86kg→74kg!!

おおおぅ!?痩せてるぅ!?

体脂肪率は…32%→22%!?

おおおおおお!!!?

見た目があまり変化無さそうだけど数値は確実に痩せているのだ。

食事量はほぼわかっていない。これは明らかな運動量のおかげだろう。
毎日10km走るのは大変だった。

それから検査は着々と進みなかなかの好成績を打ち出していく。

長年低血圧で悩んでいたが今回は初めて通常値だった。

視力に限っては人生初の1.5を記録した。
これは毎日走ることによってスマホやパソコンを見る時間が激減したおかげかもしれないし、筋肉量が増えたかなにかして毛細血管が復活して血流か良くなった副産物かもしれない。

明らかに私は人生で絶好調だったのだ。

内臓関係はすぐに結果はわからんが自覚症状は特に無いので悪くはないと願いたい。

そして最後の胃の検査だ。
バリウムを飲む前に発泡剤を飲んで胃を膨張させるのだ。

スティックをもらい一気に口の中へ粉を放り投げた。水を飲んで流そうと思った瞬間!!

ブフェヘアアアッ!?

私は豪快に泡を噴き出した。まるでグレート・ムタの毒霧のようにだ。

咳き込んだ拍子に鼻の中まで侵入し鼻からも泡が出てくる。

なんていうか、目の中からショワワワと音がする。

「あらまぁ!なんということでしょう!」
職員の方がビフォーアフターばりに驚いている。

とにかく苦しいっ!!息ができない!!
口からも鼻からも泡が出てるのだ。

まるで怪人カニ男だ。

なにか喋ろうとするにも泡が口からもショワショワ出てくる。

「あららら!」
職員の方も慌てふためくしかない。

その時私は思った。

今まで頑張って踏ん張って一生懸命に生きてきたのにこんなつまらないことで死ぬんだ…と。

本当に人間は簡単につまらないことで死んでしまうのだ。
全てが辞世の句を詠んで死ぬのではないのだ。

犬の散歩に出かけて犬の糞を取ろうとして身を屈めたら心臓麻痺で死ぬ人もいる。

相撲を見ていて興奮し過ぎて心筋梗塞を起こす人もいる。

今まで頑張って何十年と生きてきて最期に見たのは犬の糞やらお相撲さんのケツなのだ。

そういう人も中にはいるかもしれない。
全ての死がドラマチックではないのだ。

私は息ができない状況を理解した。もう死ぬんだ…儚い人生だった。一度でいいから宝くじに当たってみたかったと思ったが宝くじなど買った覚えがない。

なにか人生で良いことがあればよかったとは思ったが人生の良いこととはなんだろう?と疑問に思った。

そうしていると職員の方が
「バリウム飲むと落ち着くから検査してみよう!」と言った。

鼻から口から泡が出てる状況でバリウムを飲むのだ。
確かにドロドロしてて飲みやすい。

飲み終えた頃には咳も治まり何事もなく検査を終えることが出来た。

検査を終えて寒空の下に放り出された私は思った。

人間はどんなつまらないことでも死ぬんだ…と。