【追憶】上品山の山頂にて

今から10年以上前の話だ。上品山(じょうぼんさん)に初めて登った。登ったと言っても登山は趣味では無いので車で一気に山頂まで登ったのだ。

所用時間にして30~40分くらいだったと思う。当時はナビなんてものはなくて子の道を行けば登れるのではないか?という好奇心で走ったのだ。

大郷からも七ヶ浜からも見える上品山の山頂からの眺めはきっと良いだろうと思ったのだ。昔から高い所が好きで高い所を目指していた。バカと煙は高い所を好むと言うが本当だ。

狭い山道(一応舗装はされている)を登り、鬱蒼とした森から急に視界が開けて草原が見えた時は感動した。山頂は牛の放牧場となっていてちらほら牛が見える。実に牧歌的で長閑だ。

車を降りてみると既に日は傾きかけていた。

ただ何も考えずにその雄大な景色を眺めた。

非日常に身を置くと言葉って出ないんだな。空が近く感じる。風の音しか耳に入ってこない。

ただぼんやりと立ち尽くし徐々に奥羽山脈へ近づいて行く夕日を眺めていた。ここで宮沢賢治の詩集なんか読んだら最高だったな。まるで鳥にでもなったような感覚があった。

この瞬間が永遠のものになればいいのに…一瞬にして過去になっていく。たった1人でここにきた記憶などすぐに色褪せて忘却の彼方へと追いやられるのだろう。

どこから空でどこから大地なのかわからない。何気なく過ぎていく1日も人生の一部だ。

もっとゆっくり生きたいものだ。