7.夏の思い出

「お願い…お願いだから…この生活を…奪わないで…シュクレン!友達だろ!!」
「…トモダチ。でも…これは…決まりだから」
シュクレンは大鎌を亮太に振り下ろす。

その時。

「亮太~っ!」
お婆さんが亮太をかばい、シュクレンの大鎌を背中に受けた。蝉の羽根が消えると元の姿に戻った。

「…!?」
「ば、ばあちゃん!?」
お婆さんはニッコリ微笑む。それはいつも亮太を見つめていた時の優しい笑顔だった。

「ごめんねぇ、ずっと亮太を苦しめていたんだねぇ…ばあちゃんが亮太と一緒にまた暮らしたいと願ったばかりに…」
「ち、違うよ!おれが…おれがばあちゃんとまた一緒に暮らしたいと思ったから…!」
亮太の目から大粒の涙が溢れる。お婆さんはその亮太の涙を指で拭い頬をさすった。

「ばあちゃんが先に死ぬのは順番…このセカイでもその順番は守らねばなんねぇ、でも…いいが!?どんな事も終わりがあるがら大切にすんのだ…永遠に続くものでねぇがら一生懸命になるんだぁ!!だから…だから…亮太と一緒に暮らした時間はとても大切に思ってたんだぁ…もう一度、子供の頃の亮太と暮らしたいってばあちゃんずーっと思ってたんだぁ。ずぅっと亮太がここに来るの待ってたんだよぉ」
お婆さんはゆっくり立ち上がるとシュクレンに頭を下げる。
「死神さん、本当にご迷惑おかけました。私の願いを聞いてくれて、ここまで温情を与えてくれて…本当にありがとう」
お婆さんの体から光が溢れて小さな粒になり上へと舞い上がると少しずつお婆さんが小さくなっていく。

「ばあちゃん!ばあちゃん!!嫌だ!嫌だ!!消えないで!ずっと一緒にいてよ!ばあちゃーーーーーんっ!!!」

「亮太…ありがとうねぇ。こんなにばあちゃんの事ば好きになってくれて…」
お婆さんが亮太の頭に手をかけた瞬間、その体は消えてしまった。

「ばあちゃーーーーーん!!!!」
亮太は飛び上がりお婆さんの光の粒を掴もうとするがそれすらも消えてしまい手は空を切った。
「…亮太…」
いつの間にか空は夕焼けに紅く染まり、遠くの山々から物悲しいヒグラシの鳴き声が広がっていった。亮太は両膝をついてうな垂れ、泣き叫んでいた。

「また一人ぼっちになった…」
亮太はボソッと呟く。力無く立ち上がると目を真っ赤にしてシュクレンを睨んだ。
「シュクレン…お前さえ…お前さえ来なければ!おれはずっとばあちゃんと一緒に暮らせてたんだ!!」

「…ずっと…暮らすことは出来ない…魂は濁って…狂ってくるから」
シュクレンが再び大鎌を構える。

「かぁーっ!!」
亮太の両手が鎌のような刃へと変化する。
「ちっ、妖化しやがった!余程想いが強かったんだな!そして狂い始めてる!シュクレン!早々と勝負をつけるぞ!!」
クロウの言葉に頷き、後方に飛び距離を取る。

「シュクレーン!!」
亮太は素早く踏み込み両腕を交差させる。そして、勢いよく広げると疾風の刃となりシュクレンの体に十字の傷を付けた。

「くっ…!?」
再び跳躍し距離を取るが涼太の追撃が激しい。大鎌を振るが素早い亮太の動きを捉えきれない。
亮太はシュクレンの周りを回り小さく攻撃を加えてくる。
「シュクレン!何をしている!?むやみやたらに振り回すんじゃねぇ!奴の動きを予測するんだ!当てるんじゃなく、奴の進路に俺様を置くような感じだ!わかったか!!」
「う…うん…」
クロウの檄が飛び、頷いたものの亮太の動きは予測が難しかった。体の痛みが更に感覚を鈍らせていたのだ。
「終わりだーっ!!」
亮太の手鎌が降りかかる。
その時、シュクレンは後ろに飛び回避すると亮太はすぐに追いかける。
亮太の攻撃を肩に受けたがそのまま大鎌の柄を亮太に叩きつけ体を逆転させる。