【エッセイ】どんと祭の唄

宮城県には『どんと祭』という神事がある。

これは正月にやってきた年神様を御神火を焚いてお見送りをするためである。正月飾りを神社に持ち寄りお焚き上げし一年の無病息災を願うというものだ。

小学生の頃に子供会というものがあり、クリスマスの行事に参加していた。

集会所の傍らで大人達がどんと祭について話し合っていた。

「なんだがどんと祭盛り上げる方法ねぇが?」と地区長が神妙な面持ちで訊く。皆は柿ピーをボリボリ食べながら「そうねぇ…」と呟いた。

どんと祭は夕方に火を点けるのだが大体はその日の午前中に正月飾りの山が形成され消防団員は火を放ち遅くまで火の番をするのだ。
一番の盛り上りを見せるのが『裸参り』というもので男達が褌一丁で火の周りを周回するというものだったがそれに勝る催しをしたいと考えているようだった。

そもそもどんと祭など一年に一回しかない。いっそ牛や豚を一頭買い付けて肉を振る舞いどんと祭の火で肉を焼いて食ったらいかがなものかと思ったが年神様を送り出す神聖な火で肉を焼くなど罰あたりもいいところだから発言するのは差し控えた。

誰も言葉を発せずに柿ピーを咀嚼する音だけが部屋に響き異様な緊張感に包まれていた。

まるでこれからどこかに討ち入りに行くのではないかという雰囲気ではあったがどんと祭をいかにして盛り上げるかという会議である。

誰もが視線を泳がせこの不毛な会議を打ち切らせないかとやきもきしていたら颯爽と手を挙げる者がいた。

地区長の息子ナオキである。

「ん?どすた?」とおじさんが訊くと地区長の息子ナオキはまるでナイフが的中して黒ひげ危機一髪のようにピョイと立ち上がった。
そして、やけに通る声でこう言い放ったのだ。

「歌を歌ったらいいと思います!」

この発言に大人達は目を丸くて池を泳ぐ鯉のように口をパクパクしている。何か言いたげだが言葉が出てこないといった様子だ。

「ほう、歌か?」
地区長の言葉に地区長の息子ナオキは力強く頷いた。
すると一斉に「おおお!」という歓喜の声が上がったが、ただ単に面倒くさくなり早く切り上げ帰りたくなったに違いない。

「で、何を歌うのや?」と訪ねられると地区長の息子ナオキは小さな紙をポケットから出した。小さなポケットに入れるためか入念に畳んでおり広げるのに手間取っている。

そこから手品でも披露して鳩を飛ばすのかと思いきや勢いよく広げた際に折り目からバリッと破け地区長の息子ナオキは「あ…」と呟いた。

「ぼくが作曲してきました!」とこれまたよく通る声で言い放ったのだ。どうやらあの紙に歌詞を拵えてきたらしい。これには大人達も感心せざるを得ない様子でお互いに顔を見ては頷きあっていた。

「じゃ、歌ってけねか?」と言われると地区長の息子ナオキは周りを見渡し息を吸う。

誰かの喉がゴクッと鳴った。誰もが柿ピーを食べるのを止め地区長の息子ナオキに注目していた。

~どんと祭の唄~

作詞作曲:地区長の息子ナオキ

どんとどんとどんとどんとどんとどんと
どんとどんとどんとどんとどんとどんと

(太鼓のリズムのように)

どんとサァーイ♪
どんとサァーイ♪

どんとどんとどんとどんとどんとどんと
どんとどんとどんとどんとどんとどんと

どんとサァーイ♪
どんとサァーイ♪

「終わります!」とよく通る声で宣言すると大人達は我に返りまばらな拍手をした。

地区長は耳が真っ赤で酒が回ったのかチンパンジーのようになっている。

「グォッフォン!ヴェッヴォッ!ええ~…まぁ…いい歌だってけどや…また別な機会に考えっぺ!」と地区長は両手をシャンと叩くと一斉に柿ピーの袋を開ける音が広がった。

こうしてどんと祭は例年通り粛々と行われ、地区長の息子ナオキのどんと祭の唄は披露されることはなかった。