6.テトテト散歩~哀愁釜石編


~前回からのあらすじ~

断片的な記憶を取り戻し遂にその思い出の場所が『蓬莱島』ということを思い出す。
すぐさま向かうが蓬莱島で起きた事とは…!


 車を運転しながら過去の記憶を遡る。そこはいつか通った道。

 朧気だった記憶が徐々に呼び覚まされていく。

 あれは雨の日だった。

 その日の労働を終えて汚れた体のまま飲み屋に行った。
 繰り返される同じような日々。将来の展望も見えず、かと言って目標も無く惰性の暮らしだった。

 泥酔し、雨が降りしきる町に佇んだ。むせ返るような湿り気を帯びた空気が肌にまとわりついていた。
 自分にまとわりつくしがらみから抜け出すために働き自立していこうと決意していたのに、ただひたすら孤独に打ちひしがれていた。

 こんなはずではなかったと頭の中で自問自答を繰り返す。

 ただ怖かった。

 このまま老いていくことが。

 猫背になり、雨が降る町を歩いていると不意に雨が何かに遮られた。
 それは傘だった。後ろを振り向くと先程まで呑んでいた店の女将だった。


女将『風邪ひくよ』

「あの…」
 私は突然のことに驚き、なんと言葉を返していいのか戸惑った。
 女将とは会話らしい言葉を交わしたことは無い。ただ静かに酒を呑みながら物思いにふけっていることが多かったからだ。

 もとい人と会話をするのが苦手だった。

女将『車で送っていきますよ?』
「は、はぁ…」

 私は何かを期待していたわけではないが、女将の車に乗っていた。
 女将と言ってもまだ歳は三十前後だろうか。やや疲れた表情で憂いのある寂しさを感じた。

 車内の中で沈黙の重い空気を感じていた。私が饒舌に喋れればよいのだが、とりわけ話題などあるわけもなく左右に往復するワイパーを見つめていた。
 ようやく言葉を交わしたとしても右や左などの道案内だ。


 結局その日は何も喋らずに別れた。
 その夜、布団の中で情けない自分をどれだけ責めたかわからない。
 自分で自分をダメな奴と烙印を押し続けた。

 人と関わることを避けてきたことはなんと恥なのだろうと。不甲斐なさを感じて、再びその店に行く気が失せていたのだが気が付けば通っていた。

 女将は特に馴れ馴れしくするわけでもなく、女将の方から話しかけてくることもなかった。
 それで何となく気安さを感じていたのだ。

 だが居心地の良さと少なくとも女将の事が気になっていた。初めて他人を気にしていたのだ。

続く

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です